海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

Weekly Music Review #6: Bobby Sessions『RVLTN (Chapter 3): The Price of Freedom』

ダラスの ”Young Legend”、Bobby Sessions Bobby Sessionsはテキサス州ダラス出身のラッパー。2010年代から活動を開始し、決して楽ではない下積み時代を経て2015年に名門レーベルであるDef Jamと契約。そして2018年、今回取り上げる作品がその3作目となる連…

<Bandcamp Album of the Day>Vex Ruffin, “LiteAce Frequency”

LiteAce Frequency by Vex Ruffin カリフォルニアに拠点を置くVex Ruffinの前作『Conveyor』(2017)は、彼が空港でUPSの職員として深夜〜早朝のシフト勤務を行った経験にインスパイアされたものだった。陰鬱で、インダストリアル風のリズムはその仕事の、永…

<Bandcamp Album of the Day>Carla J. Easton, “Weirdo”

Weirdo by Carla J. Easton 2016年、当時はEtteという名義で活動していたCarla J. Eastonは『Homemade Lemonade』というアルバムを発表した。ビッグでラウドで、喜びに満ちた楽曲が詰まったこのアルバムは、SladeやThe Sweetの気取ったグラム感と、RobynやCa…

<Bandcamp Album of the Day>No Joy, “Motherhood”

Motherhood by No Joy No Joyの『Motherhood』には90年代後期の夢が息づいている。この、Jasamine White-Glutz率いるモントリオールを拠点とするプロジェクトは、この5年ぶりとなる新作で驚くような新しいサウンドを持って生まれ変わった。No Joyが2010年に…

<Bandcamp Album of the Day>Bully, “SUGAREGG”

SUGAREGG by Bully 今年のはじめ、コロナウイルスの第1波によるロックダウンでBullyの次の作品のプロモーションやツアーの計画がストップしてしまった時間を埋めるために、Alicia Bognannoは楽器をすべて自分で演奏し、ミックスをリビングで終えたNirvanaの …

<Bandcamp Album of the Day>Kathleen Edwards, “Total Freedom”

Total Freedom by Kathleen Edwards いつまで続くかわからない封鎖状態に世界全体が陥ったまさにその年に、このカナダ人カントリー・ソングライターが活動を再開したことに、Kathleen Edwardsの長年のファンであればダーク・ユーモアを見出すことができるだ…

<Bandcamp Album of the Day>Sneaks, “Happy Birthday”

Happy Birthday by Sneaks Sneaksとして知られてるワシントンD.C.を拠点とするアーティスト=Eva Moolchanは最新作からのリード・シングル “Mars in Virgo” の中でこう歌っている。“I’ve changed a lot now I’m all grown and I got to grow up some more.(…

<Bandcamp Album of the Day>Exotic Sin, “Customer’s Copy”

Customer's Copy by Exotic Sin Naima KarlssonとKenichi Iwasaによるデュオ、Exotic Sinについて語る際、Karlssonの誉れ高い音楽家系の血統について語らないことは難しい。彼女の父親、Bruce SmithはThe Pop Group、The Slits、Public Image Ltd.のドラマー…

Weekly Music Review #5: Big Sean『Detroit 2』

音楽の街、デトロイト デトロイトはアメリカの中西部、カナダとの国境に接するミシガン州最大の都市である。フォード、ゼネラル・モーターズ、クライスラーがかつて本社を置き、「モーター・タウン」として華やいだ。しかしその後人種統合政策の失敗などが重…

Weekly Music Review #4: Kelly Lee Owens『Inner Song』

ウェールズ出身のプロデューサーのKelly Lee Owens。2017年のデビュー作『Kelly Lee Owens』に続く2作目。もともとXL Recordingsでインターンしていて、そこにデビュー前のThe Xxがいたとか、その後看護師になったのちにミュージシャンに転向したとか、そん…

<Bandcamp Album of the Day>The Cradle, “Laughing In My Sleep”

Laughing In My Sleep by The Cradle Paco Cathcartはとてもブルックリン的な人物である。2012年以来、彼はThe Cradleという名義で30以上のプロジェクトをブルックリン市内のホーム・スタジオで――ある時はただの家で――レコーディングし、ほかの地元アーティ…

Weekly Music Review #2: Fantastic Negrito 『Have You Lost Your Mind Yet?』

ストリートからグラミーへ。その波乱の人生 Fantastic NegritoことXavier Amin Dphrepaulezzは1968年生まれの52歳。2016年の『The Last Days of Oakland』、2018年の『Please Don't Be Dead』に続いて、これがこの名義での3作目となる。年齢の割に遅咲きのよ…

<Bandcamp Album of the Day>Gordon Koang, “Unity”

Unity by Gordon Koang 2013年、南スーダンでは2つの有力な部族、ディンカとヌアーの間に紛争が勃発した。この戦争は今年の2月に終結したが、それまでにおよそ40万人が死亡し200万人以上が難民となった。ヌアー族のベテラン・ポップ・スターであるGordon Koa…

<Bandcamp Album of the Day>A.G. Cook, “7G”

7G by A. G. Cook PC Musicの長であり、Charli XCXのクリエイティヴ・ディレクターでもあるA. G. Cookは2020年5月19日、Potor Robinsonが主催したSecret Skyフェスティヴァルにおいて「アコースティックEDM」セットを披露した。Cookはアコースティックギター…

<Bandcamp Album of the Day>Jenny O., “New Truth”

New Truth by Jenny O. L.A.のシンガー・ソングライター、Jenny O.は、最新作『New Truth』の中で、ものを整理整頓することに慰めを見出している。“There’s a name for this, I’m sure/ Always pacing ‘round in revelation/ Repositioning the plants and p…

<Bandcamp Album of the Day>Duval Timothy, “Help”

Help by Duval Timothy ロンドン生まれのピアニストであり、マルチな領域で活躍するアーティスト=Duval Timothyによる最新作『Help』はジャズとコンテンポラリー・エレクトロニカを結合し、その楽曲の中では大陸間の奴隷貿易からメンタルヘルスの試練までに…

<Bandcamp Album of the Day>Dog Day, “Present”

Present by DOG DAY Seth SmithとNancy Urichはお互いを深く刺激し合っているクリエイティヴなカップルである。故郷であるハリファックス出身の最も愛されているインディー・ロック・バンドの一つ=Dog Dayを結成するだけではなく、二人はここ10年の間にホラ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 16: 50位〜41位

Part 15: 60位〜51位 50. Grimes: Visions (2012) Claire BoucherがGrimesとして発表した最初の2枚は、彼女のポップ的本能を実験的操作の奥底に沈めてしまっていた。3作目となる『Visions』は新たに解き放たれた才能とそれを使いこなすことへの興奮できらめ…

<Bandcamp Album of the Day>Abyss X, “Innuendo”

INNUENDO by Abyss X クレタ島出身のプロデューサーでシンガーでもあるAbyss Xは、このデビュー・フル・アルバム『INNUENDO』において、一連のダークで、断片のようなランドスケープの上にその堂々とした弾性のあるヴォーカルを塗りつけている。彼女はこれま…

Weekly Music Review#1: Popcaan 『FIXTAPE』

さて、始まってしまったこのコーナー。初回ということで、このコーナーは何を目的として、誰のために書かれるものなのかを明らかにしておきたい。 基本的に、これはぼくが「週に1度、音楽についてのまとまった文章を書く」ことを目標に始めた自己中心的な連…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Rage Against the Machine: The Battle of Los Angeles

Epic・1999年 文:Jeremy D. Larson 点数:8.7 急進的ラップ・ロック・バンドの3作目にして、1999年の停滞の中に産み落とされた、彼らの最も鋭い革命的演説 2000年の民主党全国大会で、クリントン大統領が基本政策演説を行おうとしていたステイプルズ・セン…

<Bandcamp Album of the Day>Jason Molina, “Eight Gates”

Eight Gates by Jason Molina アーティストの死後に発表される音源集で一貫性のあるアルバムを作るのは難しいことだ。パフォーマーのアーカイヴを掘り起こし、未完成の音源を取り上げて意図されて作られた作品の一部のように編曲を施す作業はまるで個人を侵…

<Bandcamp Album of the Day>Year of the Knife, “Internal Incarceration”

Internal Incarceration by Year Of The Knife 孤独と内省というのは古くからある風習ではあるが、みなさんがご存知の理由によって、その精神状態は今の世界的状況と切っても切り離せないものになってしまった。もちろん何もかもがパンデミックについてとい…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 29: 60位〜56位

Part 28: 65位〜61位 60. Future: “March Madness” (2015) www.youtube.com “March Madness” の大半では、Futureは自分の豪勢な暮らしを詳細に語っている。特にこの時期にあって、それは非常に真実らしくに聞こえた。このアトランタのラッパーは2015年、Drak…

<Bandcamp Album of the Day>Swarvy, “Sunny Days Blue”

SUNNY DAYS BLUE by SWARVY ここ10年で、Swarvyは一つのサウンドやジャンルにとどまることのない、信頼の置けるプロデューサーとなった。彼がよく知られたラップやR&Bを自身のビートにブレンドしようが、自身が作り上げたジャズやソウルを中心に添えた編曲で…

<Bandcamp Album of the Day>Black Soprano Family, “Benny the Butcher & DJ Drama Present: Black Soprano Family”

Benny the Butcher & DJ Drama Present: The Respected Sopranos by BLACK SOPRANO FAMILY Black Soprano FamilyのBenny the ButcherとDJ Dramaという組み合わせは、一聴すると興味深い提案のように聞こえる。Griseldaの一員であるBennyは、90年代イースト・…

<Bandcamp Album of the Day>Aladean Kheroufi, “Beauty Beyond Grief”

Beauty Beyond Grief by Aladean Kheroufi Aladean Kheroufiの名はまだ広く知られていないかもしれないが、彼の音楽的な多才さは雄弁である。故郷のアルバータ州エドモントン――彼の最新のヴィデオは誇らしげにも、愛してやまないピザ屋さんで撮影されている―…

<Bandcamp Album of the Day>FSQ, “Reprise Tonight”

Reprise Tonight by FSQ 60年代半ば、James Brown がファンクを発明した。その後の数十年の間に、その精神はディスコ、ヒップホップ、そしてそれを越えて広く広まった。そしてその一部は Chuck ”Da Fonk” Fishman、プロデューサーの G. Koop、そして故・Sa'd…

<Bandcamp Album of the Day>Shirley Collins, “Heart’s Ease”

Heart's Ease by Shirley Collins Shirley Collinsが当初40年近い沈黙を破った時、彼女は暗闇を携えていた。50年代後期から70年代の終りまでの20年間、Collinsは英国フォーク・シーン復活のスターであった。彼女の声は柔らかくも力強く、それは霧の中に差し…

<Bandcamp Album of the Day>Makaya McCraven, “Universal Beings E&F Sides”

Universal Beings E&F Sides by Makaya McCraven 新しいドキュメンタリー作品『Universal Beings』の中で、Makaya McCravenは彼特有のジャズのミックスの背後にある創作プロセスをこう説明している。まず、彼は様々なミュージシャンの集団と即興で生演奏をす…