海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

Weekly Music Review #20: スカート『アナザー・ストーリー』

スカートの「アナザー・ストーリー」をApple Musicで アナザー・ストーリー - Album by スカート | Spotify 今年で活動開始10周年を迎えた澤部渡のソロ・プロジェクト=スカートが、現在所属しているカクバリズムに加入前に発表していた自主制作の音源『オー…

<Bandcamp Album of the Day>Various Artists, “Color De Trópico: Compiled By El Dragón Criollo & El Palmas”

Color De Trópico Compiled By El Drágon Criollo & El Palmas by El Palmas Music 南アフリカをディグする博学者=El PalmasとEl Dragón Criolloはこの度、1966年から1978年にかけてベネズエラでリリースされた隠れた楽曲たちを拾い集め、初めてバイナルで…

<Bandcamp Album of the Day>E-Saggila, “Corporate Cross”

Corporate Cross by E-Saggila 『Anima Bulldozer』の野性味あふれるビートによって高いハードルを設定したRita Mikhael(またの名をE-Saggila)は、Hospital Productionsからの初のLPとなるこの作品でそれを見事にクリアすることでこの2020年を終えようとし…

Weekly Music Review #19: 眉村ちあき『日本元気女歌手』

眉村ちあきの「日本元気女歌手」をApple Musicで 日本元気女歌手 - Album by Chiaki Mayumura | Spotify ゴッドタンに出演し「ゲロ」を題材にした即興ソングを歌ったことで一気にスターダムへの道を歩み始めたシンガー・ソングライター=眉村ちあき。やっぱ…

<Bandcamp Album of the Day>Boris & Merzbow, “2R0I2P0”

2R0I2P0 by Boris & Merzbow Borisには不作の年というものがない。この世紀が始まった時から、このメタル界で最も大胆なバンドの一つに数えられる彼らのディスコグラフィーは1年に1度の氾濫を起こし、カレンダーはスプリット、シングル、コラボレーション、…

<Bandcamp Album of the Day>DJ Earl, “Bass + Funk & Soul”

[MTXLT190] BASS + FUNK & SOUL by DJ EARL デトロイト、メンフィス、フィラデルフィア、そしてアトランタといった他のアメリカの大都市と同じように、シカゴの歴史とアイデンティティもまた、そこに暮らす黒人労働者階級の住民たちの音楽と切っても切り離せ…

<Bandcamp Album of the Day>DJ Earl, “Bass + Funk & Soul”

[MTXLT190] BASS + FUNK & SOUL by DJ EARL デトロイト、メンフィス、フィラデルフィア、そしてアトランタといった他のアメリカの大都市と同じように、シカゴの歴史とアイデンティティもまた、そこに暮らす黒人労働者階級の住民たちの音楽と切っても切り離せ…

<Bandcamp Album of the Day>Dezron Douglas and Brandee Younger, “Force Majeure”

Force Majeure by Dezron Douglas & Brandee Younger ニューオリンズのコンゴ・スクエアでのアフリカ系奴隷たちの集会の中で生まれ、ナイトクラブや世界中のフェスティバルで発展していったことから、ジャズというのは生来公的な、社会的な音楽である。ハー…

<Bandcamp Album of the Day>Jahari Masamba Unit, “Pardon My French”

Pardon My French by Jahari Massamba Unit Madlibの『Medicine Show #7 - High Jazz』にはJahari Massamba Unitというバンドが登場する。その名前はまるでStrata-East Recordsから出ていた大昔のアンサンブルのようである。しかし、実際これはMadlib、Karri…

<Bandcamp Album of the Day>Khruangbin, “LateNightTales: Khruangbin”

LateNightTales: Khruangbin by Khruangbin Khruangbinが作家A. W. Wildeによるアーティストのキュレーションによるコンピレーション・シリーズ『Late Night Tales』に参加したこの作品は、世界中への旅の口頭伝承である。その始まりと終わりはこのエクスペ…

Pitchforkが選ぶ2010年代ベスト・ソング200 Part 32: 45位〜41位

Part 31: 50位〜46位 45. Robyn: “Call Your Girlfriend” (2010) www.youtube.com “Call Your Girlfriend” ほど棘が多くやっかいなシナリオの中で踊り切ることができるのは、スウェーデンの大人気ティーン・ポップ歌手から自己決定権を持ったスーパースター…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 31: 50位〜46位

Part 30: 55位〜51位 50. Arcade Fire: “Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)” (2010) www.youtube.com “Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)” は2010年のアルバム『The Suburbs』、そしてその時点までにArcade Fireが成し遂げてきたものすべてのク…

<Bandcamp Album of the Day>Luke Titus, “Plasma”

Plasma by Luke Titus Luke Titusは十代の頃からシカゴのヒップホップ、アヴァンギャルド・ジャズのシーンの神童であり、この世のものとは思えないほどのドラムのスキル、そしてNoname、Phoelix、Sen Morimoto、Ravyn Lenaeといったアーティストとの立派な共…

Weekly Music Review #17: Juicy J『The Hustle Continues』

ジューシー・Jの「THE HUSTLE CONTINUES」をApple Musicで THE HUSTLE CONTINUES - Album by Juicy J | Spotify 1973年、ニューヨークはブロンクスで産声を上げたヒップホップはその後現在に至るまで実に多彩なスタイルを生み出しながら成長・変化を遂げてき…

<Bandcamp Album of the Day>Hachiku, “I’ll Probably Be Asleep”

I'll Probably Be Asleep by Hachiku オーストラリアのバンド=Hachikuは2017年にセルフ・タイトルEPでデビューした。きらめくようなインディー・ロックの雰囲気と内省的な歌詞に、バンドのサウンドもマッチしていた。そしてリリースされた1枚目のフル・アル…

<Bandcamp Album of the Day>Cabaret Voltaire, “Shadow of Fear”

Shadow of Fear by Cabaret Voltaire なぜ2020年にもなってスピーカーからCabareit Voltaireの新作――実に26年ぶりだ――が流れているのか不思議に思っている人たちへの答えは、作品のタイトルそのものにある:『Shadow of Fear(恐怖の影)』。今の私たちの集…

<Bandcamp Album of the Day>Seba Kaapstad, “Konke”

Konke by Seba Kaapstad 『Konke』は南アフリカのR&Bカルテット=Seba Kaapstadによる印象的な2作目だ。ボーカリストのZoe ModigaとNdumiso Mananaに導かれるこのアルバムはリッチで熱のこもった、現代の人生と多くの心にまつわる複雑な問題についての思索で…

<Bandcamp Album of the Day>Sons of the James, “Everlasting”

Everlasting by Sons Of The James Sons of the Jamesはアトランタのシンガー・ソングライター=Rob Miltonとプロデューサー/マルチ奏者=DJ Harrisonのコラボレーション。MiltonがBlack Lives Matterの抗議活動で経験したことをもとに2015年、Harrisonの故…

<Bandcamp Album of the Day>Dorcha, “Honey Badger”

Honey Badger by Dorcha UKはバーミンガムのグループ=Dorchaはその名前をスコットランド・ゲール語で「ダークな、うす暗い、不可解な」などの意味を持つ多義語からとっている。『Honey Badger』を通じて多くの場面で、Dorchaはこれら3つの定義と合致してい…

<Bandcamp Album of the Day>Emily A. Sprague, “Hill, Flower, Fog”

<a href="https://mlesprg.bandcamp.com/album/hill-flower-fog-2" data-mce-href="https://mlesprg.bandcamp.com/album/hill-flower-fog-2">Hill, Flower, Fog by Emily A. Sprague</a> 蜘蛛の糸のようなフォーク・サウンドを聴かせてくれた2019年の『Emily Alone』以来となるEmily A. Spragueによる新曲集『Hill, Flower, Fog』は、アンビエント・アルバムというよりはガーデンをそのままサウンドに写…

Weekly Music Review #16: BTS『Be』

BTSの「BE」をApple Musicで BE - Album by BTS | Spotify BTSの存在を知ったのはいつだったのか思い出せないが、おそらく『LOVE YOURSELF 轉(Tear)』がビルボードのアルバムチャートで1位を取ったあたりの2018年ごろだったように思う。当時のぼくはといえば…

<Bandcamp Album of the Day>Ana Roxanne, “Because of a Flower”

Because of a Flower by Ana Roxanne アンビエント・ミュージックの銀河の中でも、Ana Roxanneの作品はひときわ明るく輝いている。このシンガーの批評的に成功を収めたデビューEP『~~~』は彼女の中性的なアイデンティティを親密さをもって探索し、そのごWeye…

<Bandcamp Album of the Day>Pink Siifu & Fly Anakin, “FlySiifu’s”

FlySiifu's by Pink Siifu & Fly Anakin ラッパー=Pink SiifuとFly Anakinのコラボレーション・プロジェクトの最初のスキットは、二人の人気上昇中のMCがFlySiifu'sという架空のレコード・ショップを経営していて、それに続くこの22曲入りのアルバムは昔な…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part30: 55位〜51位

Part29: 60位〜56位 55. Bat for Lashes: “Laura” (2012) www.youtube.com タイトルにもなっている登場人物「Laura」は危機に陥っている夢追い人で、群衆に置き去りにされパーティーに疲れ果てた社交界の名士である。Natasha Khanだけが彼女の傍に寄り添い、…

<Bandcamp Album of the Day>Contento, “Lo Bueno Está Aquí”

Lo Bueno Está Aquí by Contento ポップ・カルチャー界の巨人に独自のスピンを加えることは時にとてつもなく恐ろしいことだが、コロンビアのサルサパンク・デュオ=Contentoのプロデューサー=Paulo OlarteとSebastián Hoyosは堂々とそのチャレンジを引き受…

Weekly Music Review #15: 2 Chainz『So Help Me God!』

2チェインズの「So Help Me God!」をApple Musicで So Help Me God! - Album by 2 Chainz | Spotify 今回のレビューを書くまで、2 Chainzというラッパーについて深く考えたことはなかった。…と似たようなことをBig Sean『Detroit 2』評でも書いたが、2 Chain…

<Bandcamp Album of the Day>Sun Ra Arkestra, “Swirling”

Swirling by Sun Ra Arkestra 時間とは錯覚である。太陽の光が地表に降り注ぐまでにかかる8分間の遅延、あるいは太陽系に最も近い星=プロキシマ・ケンタウリが放った光が私たちの目に届くまでにかかる4年という歳月を考えてみるとよい。あるいは、銀河の果…

<Bandcamp Album of the Day>Heather Trost, “Petrichor”

Petrichor by Heather Trost Heather Trostはこの想像力を掻き立てるアルバム『Petrichor』において、サイケデリック・ポップに遊び心あふれる実験的な装飾を織り合わせた奇妙なパッチワークを編んでいて、自然界の美しさへの畏敬の念に満ちた彼女の愛らしい…

<Bandcamp Album of the Day>Pom Poko, “Cheater”

Cheater by Pom Poko Pom Pokoの音楽には爆発的な優しさがある。それはまるでPeepを電子レンジに入れるかのようだ。2019年のデビュー作『Birthday』で、このノルウェーのグループはパンチのあるノイズ・ポップと失恋についての歌詞、そして元気いっぱいなボ…

<Bandcamp Album of the Day>Xyla, “Ways”

Ways by Xyla デビューアルバム『Ways』において、サンフランシスコを拠点とする、クラシック音楽家から転身したエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー=Xylaは蛇のように曲がりくねったサウンドスケープを作り上げ、リスナーを平凡な日常から連れ…