海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Duval Timothy, “Help”

ロンドン生まれのピアニストであり、マルチな領域で活躍するアーティスト=Duval Timothyによる最新作『Help』はジャズとコンテンポラリー・エレクトロニカを結合し、その楽曲の中では大陸間の奴隷貿易からメンタルヘルスの試練までにわたるありとあらゆるものを探求している。プログラムされたビートとオーガニックなインストゥルメンテーションが美しくまじりあう。アルバムの1曲目 ”Next Tomorrow” はLunatic Harness時代のU-ziqを思わせる、物悲し気なジャズ風のゴージャスなドラムンベース・チューン。歪んだアトモスフェリックな ”Alone” やダークでドリーミーな ”Morning” のような楽曲にTimothyの幅広さが表れている。前者ではピッチを加工したサックスのラインがヴォーカルのサンプルと対話し、幻惑的でシュールな雰囲気を漂わせる。後者では綿のようなシンセが、ゆったりとした銀色のジャズ・ギターの中にくるまれていて、静かながらも祝福間に溢れている。

そして、Twin Shadowをフィーチャーした ”Slave” は奴隷貿易の歴史と現代的な示唆に富んだ、胸が張り裂けそうな思索となっている。胸を打つようなピアノのメロディに乗せて、一連の声が ”slave” という単語を何度も繰り返し、方向感覚を失わせるかのようにお互いの上に折り重なっていく。楽曲全体には疲弊した雰囲気が感じられる――まるで歴史の重みによって引きずりおろされていく世界のように。『Help』は斬新で美しく演奏されたこのような楽曲が詰まっている。一つ一つの音に、肥沃で恐ろしい音楽的精神の存在が予告されているかのようである。

By John Morrison · August 10, 2020

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