Weekly Music Review #66: Adele『30』
今年はイギリスのブラック・ミュージック(特にソウル〜R&B)の良作が相次いだ。Arlo Parks、Celeste、Jorja Smith、Ray BLK、Greentea Peng、Jungle、Sault、Cleo Sol、Little Simz…などなど。Black Midi、Dry Cleaning、Black Country, New Road、Squid、IDLESなどのロック勢(主にサウス・ロンドン)の活躍も含め、2021年はイギリスの年だった、なんていい方もできるかもしれない。
そんな中で真打ち登場、Adeleの新作である。リリースされた直後に「今年で一番はやく売れたアルバム」の座を獲得した。とはいえストリーミングの拡大に酔って前作より売上は少し落ち込んでいるらしい(確かに5年前に『25』がリリースされた際、ぼくは留学先のバンクーバーでCDを買った記憶がある)。
Adeleは白人なんだからブラック・ミュージックじゃないじゃないか、と思われるかもしれないし、実際Adeleの音楽は「ポップ」として認識されていて、だからこそこれほどまでに売れているわけだが、音楽性はソウル・ミュージックそのものであると声を大にして言いたい。と同時に、もし彼女がアフリカ系だったらここまで売れていただろうか…ということを考えると、そこまでこの世界は落ちぶれてはいないだろうと思いながらも、まあここまでは売れていなかっただろうと考えてしまい、キレそうになってしまう(最近のぼくは勝手に想像して勝手にキレていることが多く、カウンセリングに通うことを真剣に検討している)。
前述のSault、Cleo Sol、Little Simzのプロデュースを務めたInfloが3曲で参加しているのも見逃せないところ。
個人的ハイライトを2曲紹介。
Tyler, the CreatorとSkeptaにインスパイアされたボイス・メモによる生々しい肉声も印象的なこの曲だが、この曲に加えてこの次の「Cry Your Heart」、そして最後を締めくくる「Love Is a Game」において、モータウン風のオーガニックで華やかなソウル・サウンドを聴かせてくれるのがこのアルバムの嬉しい驚きだった。『25』の作風を考えるともっと洗練されたポップスに行くのかなあと思っていたので(だからこそ、中盤のそういう路線の曲にはあまりそそられなかった)。
「歌唱力」という言葉があまり好きではなくて、それって速弾きや楽器のテクニックをひたすら褒めちぎるのとあまり違わなくないか?と思っているので、歌の巧さで楽曲の優劣を判断したり、それに素直に感動することはあまりない。ただ、この「To Be Loved」には食らった。将来の息子に向けて、自身の結婚の失敗について語るという形を取るこの曲は、現在の息子に語りかける「My Little Love」と対になっているというところも美しい。