海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Dog Day, “Present”

Seth SmithとNancy Urichはお互いを深く刺激し合っているクリエイティヴカップルである。故郷であるハリファックス出身の最も愛されているインディー・ロック・バンドの一つ=Dog Dayを結成するだけではなく、二人はここ10年の間にホラー映画の製作にその領域を移し、そこでも同じように独特のDIY的手法をとっている。二人のデビュー作『LOWLIFE』は映画祭でカルト的な評価を得て、それが次作『The Crescent』の制作につながった。この閉所恐怖症的~超自然的ホラー映画はカナダ全土で上映され、昨年の『The Lighthouse』のような映画にも影響を与えた。そしてその結果二人は音楽制作に戻ってきた。『The Cresent』のサウンドトラックのために1曲制作するところから始まり、ついにはキャリアの中でも傑出したカムバック作『Present』へと結実した。

以前のリリースからは7年の間が空いているが、このバンドの持つ明瞭で、少しシューゲイザーっぽさを持っているそのサウンドは健在である。『Present』ではそこにゴシック風の暗闇やボロ家のようなシンセポップといった要素がコントラストを加えている。Smithのハイ・テナーの声はDoug MartschDavid Bazanと比較されうるものであるし、Urichがリードをとるいくつかの楽曲(”Mind Reader”、“You Were You”)ではドリーミーでふわふわとした質感がDeal姉妹を想起させる。Dog Dayのオリジナル・ドラマーであるKC Spidleとキーボード奏者のMegumi Yoshida(UrichとNot Youというグループで演奏していたことがある)は、アルバムの後半にかけて特にアレンジでの肉付けを担っており、”Inner Space” では盛り上がりの絶頂を迎える。アルバム全体にはメランコリーな切望、といったトーンが感じられるが、”Does It Hurt To Laugh” でSmithがミーム風の歌詞「everything is fine」を呪文のように繰り返すのを聴くと、壮大な感動を禁じ得ない。

By Jesse Locke · August 07, 2020

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