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<Bandcamp Album of the Day>Vex Ruffin, “LiteAce Frequency”

カリフォルニアに拠点を置くVex Ruffinの前作『Conveyor』(2017)は、彼が空港でUPSの職員として深夜〜早朝のシフト勤務を行った経験にインスパイアされたものだった。陰鬱で、インダストリアル風のリズムはその仕事の、永遠に続くかのような退屈と単調さを巧妙に映し出していた。しかしそれに続くこの『LiteAce Frequency』では、緩やかなグルーヴと開放的で楽観的なトーンへとシフトしている。それは、フィリピンのパラニャケで育った時に聴いていた70年代のフィリピン・ソウルを再訪したことが一つのきっかけとなっている。

『LiteAce Frequency』はRuffinのキッチンテーブルの上で作りあげられた。そこで彼はヒップホップのループの科学とニュー・ウェイヴからの影響を統合し、独自の曲構成の技術を確立した。“Mabuhay Boy” はあらがい難い、ファジーで転がるようなベースのループ、滑るような鍵盤を中心に置き、Ruffinはタガログ語で歌っている。“I’m Going Hard” は不釣り合いなドロドロしたドラムと共に奇妙に展開していく。アルバム中盤の “Free-quency” は、マンチェスターのアンディー・グループThe Stone Rosesの80年代後期の名曲 “Fools Gold” のBizarro World(DCコミックスに登場する架空の惑星)版のように聞こえる。靄がかった、引き延ばされたヴォーカルがシンコペートするブレイクビートに重ねられていく。

Ruffinによる感染力の強いプロダクションに加え、『LiteAce Frequency』の歌詞の中では、謙虚な目標を設定することで満足感をえることの重要性を讃えるという見方を示している。重心の低いパーカッションとかき混ぜるようなオルガンのラインが印象的な、穏やかで喜びに満ちた1曲目の “Know Yourself” で、Ruffinはこう歌う。“Life is not what you expect/ I don’t care, I’m happy anyway(人生は期待通りのいかないもの/でも気にしない、それでも幸せでやってるから)” と。このメッセージは最後の曲 “What Matters The Most” で完結される。気ままなギターと暖かいベースに導かれ、Ruffinは誠実にこう願う。「愛する人を気にかけること」そして「自分のことも気にかけること」と。

By Phillip Mlynar · August 25, 2020

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