海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

2020-09-01から1ヶ月間の記事一覧

<Bandcamp Album of the Day>Phew, “Vertigo KO”

Vertigo KO by Phew ヒロミ・モリタニは40年近くに渡り、アンダーグラウンドな日本の音楽の中で決定的な道を歩んできた。彼女はAunt Sallyという、サイケデリアやピアノ・ワルツ、ノイズ、あるいはNico風の憂鬱さまでも楽曲に取り込んだ、他のSex Pistolsフ…

<Bandcamp Album of the Day>Christian Scott aTunde Adjuah, “Axiom”

Axiom by Christian Scott aTunde Adjuah トランペット奏者/作曲家のChristian Scott aTunde Adjuahの録音作品はその革新性と洗練さで我々を驚かせてくれるが、そこには音楽と聴き手の間に距離を置かせるような、重みのある要素も含まれている。殊更ジャズ…

<Bandcamp Album of the Day>Vritra, “SONAR”

SONAR by Vritra イングルウッドを拠点として活動するラッパー=Vritraは10年代のはじめ、不作法で、荒々しいほどに成功を収めたOdd Futureコレクティヴの創設メンバーとして知られていた。今では10年以上のソロ・キャリアを持つ彼の最新作『SONAR』では、そ…

<Bandcamp Album of the Day>Throwing Muses, “Sun Racket”

Sun Racket by Throwing Muses Throwing Musesの駄作なんてものがあるだろうか?答えはノーだ。「カレッジ・ロック」という物事を単純化するジャンル名の中で最も輝かしくオリジナルなバンドとして40年以上のキャリアを誇るThrowing Musesが、彼らの魅力的な…

<Bandcamp Album of the Day>Billy Brooks, “Windows of the Mind”

Windows Of The Mind by Billy Brooks トランペット奏者=Billy Brooksの名前は音楽史に深く刻み込まれてはいないかもしれないが、彼は1960年代終わりから1970年代はじめのジャズ・ファンクの進化に置いて中心的な役割を果たした。1950年代からセッション・…

<Bandcamp Album of the Day>Rui Ho, “Lov3 & L1ght”

Lov3 & L1ght by RUI HO 中国生まれ、ベルリンを拠点に活動するRui Hoは、彼女のミックスや作品の中で聴かれる堂々とした、幻惑的なエレクトロニック・サウンドによって、ポスト・クラブの国際的なコミュニティの中で長く知られている存在である。中国の伝統…

<Bandcamp Album of the Day>Bill Callahan, “Gold Record”

Gold Record by Bill Callahan Bill Callahanは飛行機で旅行することについて2つの素晴らしい楽曲を書いているが――2013年の『Dream River』に収録された ”Small Plane” と、2019年の『Shepherd in a Sheepkin Vest』に収録の ”747” がそれである――、ソングラ…

Weekly Music Review #7: SPARTA『Count Your Blessings』

今年『フリースタイル・ダンジョン』が終了したことに象徴されるように、日本のヒップホップは爆発的なブーム期を終え、若年層にしっかりと浸透した定着期に突入したように感じる。 日々若くてフレッシュなラッパーが世に羽ばたいているが、いかんせんシング…

<Bandcamp Album of the Day>Calabashed, “Behold a Black Wave”

Behold A Black Wave [PURP004] by Calabashed ロンドンを拠点とするジャズ&ポエトリー・アンサンブルのCalacashedは、MCであり作家であるJoshua Idehen、サックス奏者のAlabaster DePlume、ハープ奏者のMaria Osuchowska、ギタリストのJames Howard、ドラ…

<Bandcamp Album of the Day>Georgia Anne Muldrow (as Jyoti), “Mama, You Can Bet!”

Mama, You Can Bet! by Jyoti 最新作で、Georgia Anne MuldrowはJyotiという名義――故・Alice Coltraneから授けられた名前だという――を用いて、アヴァンギャルド・ソウル〜ジャズをやっている。このアメリカで最も完成されたソウル・アーティストが、その実験…

<Bandcamp Album of the Day>Alan Braufman, “The Fire Still Burns”

The Fire Still Burns by Alan Braufman 『The Fire Still Burns』は、遥か過去へと遡るジャズの関係性の燃えさしに、再び火をつける作品である。1974年、サックス奏者Alan Braufman率いるグループがピアニストCooper-Mooreをフィーチャーし、新興レーベルIn…

<Bandcamp Album of the Day>Ashraf Sharif Khan & Viktor Marek, “Sufi Dub Brothers”

Sufi Dub Brothers by Ashraf Sharif Khan & Viktor Marek Ashraf Sharif KhanとViktor Marekはもう十年以上に渡って共作を続けているため、2人のサウンドを説明するような別名を持っていてもおかしくなかったのだが、『Sufi Dub Brothers』という今回のアル…

<Bandcamp Album of the Day>Dukes of Chutney, “Hazel”

Hazel by Dukes of Chutney Dukes of Chutneyのデビュー作『Hazel』は、まるでLaurel Canyonを経由してBroadcastを呼び出そうとしているかのようだ。このグループは10年代のはじめにサーフィンをしているときに出会ったDustin LynnとJohn Paul Jones IVの二…

Weekly Music Review #6: Bobby Sessions『RVLTN (Chapter 3): The Price of Freedom』

ダラスの ”Young Legend”、Bobby Sessions Bobby Sessionsはテキサス州ダラス出身のラッパー。2010年代から活動を開始し、決して楽ではない下積み時代を経て2015年に名門レーベルであるDef Jamと契約。そして2018年、今回取り上げる作品がその3作目となる連…

<Bandcamp Album of the Day>Vex Ruffin, “LiteAce Frequency”

LiteAce Frequency by Vex Ruffin カリフォルニアに拠点を置くVex Ruffinの前作『Conveyor』(2017)は、彼が空港でUPSの職員として深夜〜早朝のシフト勤務を行った経験にインスパイアされたものだった。陰鬱で、インダストリアル風のリズムはその仕事の、永…

<Bandcamp Album of the Day>Carla J. Easton, “Weirdo”

Weirdo by Carla J. Easton 2016年、当時はEtteという名義で活動していたCarla J. Eastonは『Homemade Lemonade』というアルバムを発表した。ビッグでラウドで、喜びに満ちた楽曲が詰まったこのアルバムは、SladeやThe Sweetの気取ったグラム感と、RobynやCa…

<Bandcamp Album of the Day>No Joy, “Motherhood”

Motherhood by No Joy No Joyの『Motherhood』には90年代後期の夢が息づいている。この、Jasamine White-Glutz率いるモントリオールを拠点とするプロジェクトは、この5年ぶりとなる新作で驚くような新しいサウンドを持って生まれ変わった。No Joyが2010年に…

<Bandcamp Album of the Day>Bully, “SUGAREGG”

SUGAREGG by Bully 今年のはじめ、コロナウイルスの第1波によるロックダウンでBullyの次の作品のプロモーションやツアーの計画がストップしてしまった時間を埋めるために、Alicia Bognannoは楽器をすべて自分で演奏し、ミックスをリビングで終えたNirvanaの …

<Bandcamp Album of the Day>Kathleen Edwards, “Total Freedom”

Total Freedom by Kathleen Edwards いつまで続くかわからない封鎖状態に世界全体が陥ったまさにその年に、このカナダ人カントリー・ソングライターが活動を再開したことに、Kathleen Edwardsの長年のファンであればダーク・ユーモアを見出すことができるだ…

<Bandcamp Album of the Day>Sneaks, “Happy Birthday”

Happy Birthday by Sneaks Sneaksとして知られてるワシントンD.C.を拠点とするアーティスト=Eva Moolchanは最新作からのリード・シングル “Mars in Virgo” の中でこう歌っている。“I’ve changed a lot now I’m all grown and I got to grow up some more.(…

<Bandcamp Album of the Day>Exotic Sin, “Customer’s Copy”

Customer's Copy by Exotic Sin Naima KarlssonとKenichi Iwasaによるデュオ、Exotic Sinについて語る際、Karlssonの誉れ高い音楽家系の血統について語らないことは難しい。彼女の父親、Bruce SmithはThe Pop Group、The Slits、Public Image Ltd.のドラマー…

Weekly Music Review #5: Big Sean『Detroit 2』

音楽の街、デトロイト デトロイトはアメリカの中西部、カナダとの国境に接するミシガン州最大の都市である。フォード、ゼネラル・モーターズ、クライスラーがかつて本社を置き、「モーター・タウン」として華やいだ。しかしその後人種統合政策の失敗などが重…

Weekly Music Review #4: Kelly Lee Owens『Inner Song』

ウェールズ出身のプロデューサーのKelly Lee Owens。2017年のデビュー作『Kelly Lee Owens』に続く2作目。もともとXL Recordingsでインターンしていて、そこにデビュー前のThe Xxがいたとか、その後看護師になったのちにミュージシャンに転向したとか、そん…