<Bandcamp Album of the Day>The Cradle, “Laughing In My Sleep”
Paco Cathcartはとてもブルックリン的な人物である。2012年以来、彼はThe Cradleという名義で30以上のプロジェクトをブルックリン市内のホーム・スタジオで――ある時はただの家で――レコーディングし、ほかの地元アーティストの作品にも多く参加している。雄大で広範な彼の新しいアルバム『Laughing In My Sleep』もまた、地元にて制作された。しかし、この作品はこれまでの彼の作品の中でも最もドキュメント色が強く、ブルックリンでの生活のある瞬間や光景を鮮やかな色彩で切り取っている。彼はこの21曲を、グレイハウンドとメガバス(ともにニューヨーク市内のバス会社)のみを使って行われたアメリカツアーの成功、長い恋愛関係の消滅、クラウン・ハイツのアパートからの退去などいくつもの転機の中で書き上げた。これらの曲が合わさって、この作品はCathcartの失恋した心境、そして彼の眼には不思議の国と荒廃した土地の間を振り子のように揺れ動くものとして映っているこの街の、いたく感動的な場面を垣間見ることができる。
The Cradleとしての楽曲について、彼は長年自身の繊細な声と催眠的なアコースティック・ギターを用いた簡素な構成ながらも、とたんに方向転換し、もろいサウンドや甘いハーモニー、震えるホーンなどが目まぐるしく登場するような楽曲を好んで聞かせてくれていた。『Laughing In My Sleep』も同じようなパレットを用い、録音も生々しい――4トラックを用いて作られているものもあるが、ボイス・メモに書き留められ、カオティックなノイズと隣接されているものもある――が、それでもこれまでで最も強力で直接的なソングライティングを聞かせている。Cathcartのヴォーカル・メロディは魅惑的で、PalbertaのLily Konigsbergとデュエットした少しケルト風の ”One Too Many Times” や、優しくポップな “Eyes So Clear” などではそれが顕著である。作品を通して彼のギターの演奏は節くれだった楽曲の推進力として機能していて、奇妙なフォーク・サウンドを聞かせていたころのAnimal Collectiveからの影響が感じられるどしんと響くドラムがアルバムに切迫感と頑強さを与えている。
Cathcartが描くのは具体性に根付いて描かれた場面である。もしJeff Mangumがその目を宇宙から日々の生活に移せば、『Laughing In My Sleep』のようなものを作るのではないだろうか。”Children” では、我々はCathcartのすぐ傍に立ち、地下鉄のホイト-スカーマーホーン・ストリーツ駅の夜間の荒廃ぶりを見事なディテールで感じることができる。本作のハイライトである “End of the Day” では彼は近所を散歩し、Saint John公園で子供たちがバスケットボールに興じる姿を眺め、46番のバスに乗って家に帰っていく。そこでアルバムの中でも最も奇妙な瞬間が訪れる。“A ghost was walking towards me picking up the broken glass/ She was looking at the edges and putting it in a plastic bag(幽霊が割れたガラスを拾いながらこちらに向かってくる/彼女は破片の鋭利な部分を見てプラスチックの袋に入れていく)”。何か示唆的でありながら奇妙でもあるCathcartが描くこの世界は、彼のような視点を今までになく必要としているこの街にささげられた頌歌である。
By Max Savage Levenson · August 14, 2020