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<Bandcamp Album of the Day>No Joy, “Motherhood”

No Joyの『Motherhood』には90年代後期の夢が息づいている。この、Jasamine White-Glutz率いるモントリオールを拠点とするプロジェクトは、この5年ぶりとなる新作で驚くような新しいサウンドを持って生まれ変わった。No Joyが2010年に鳴らしていたシューゲイズのファンたちは、このアルバムで聴かれるファンキーなスラップ・ベース、トランス・ビート、ニューメタル風のギターにショックを受けるだろう。しかし、これらのつまみ食いの要素はここでは流行を超越した融合を果たしている。そして、それらは決していきなりとってつけられたものでもないのだ。No JoyがSpacemen 3Sonic Boomと共にプロデュースした2018年のEPは彼らがエレクトロニカに向かった最初の作品であったが、底から行き着くところに行き着いたのである。

平行世界の『MAGNET-Magazine』のサンプラーのようなこの『Motherhood』は、もっともらしくプロデュースされたジャンルの探索の中をあちらへこちらへと進んでいく。11曲のそれぞれが、キャンパス・ラジオや『Disturbing Behavior』のサントラにも馴染むような、メジャー・レーベルからでている輸入盤CDからの最もキャッチーなシングルのようである。これはWhite-Glutzが招集した精鋭チームの助けもあってのことである。長年の共作者であるJorge ElbrechtDeath Cab for CutieのChris Walla、そして90年代の不安げなロッカー=Kittieのギタリスト、Rara McLeodなど。いくつかの曲(“Birthmark”、“Ageless”、“Nothing Will Hurt”など)では非のうちのどころのないミキシングと、ニューエイジ風でありながらクラブ・レディであるようなMadonnaの『Ray of Light』を思わせる多幸感あふれるヴォーカルを聞くことができる。しかし彼らはヘヴィネスへの熱意を失っているわけではない:“Dream Rats" ではWhite-Glutzの妹でありデス・メタルの重鎮=Arch Enemyを率いるAlissaによる背筋も凍るようなヴォーカルをフィーチャーし、ドリーム・ポップとブラック・メタルを混ぜ合わせている。これらの異なる要素が奇妙に、そして素晴らしくいっしょくたになり、“Four” ではリフの壁がグルーヴィーなスロウジャムと衝突し、テクノ的なぴしゃぴしゃとした音と赤ちゃんのサウンド・エフェクトによって完成されている。『Motherhood』でNo Joyはなにか完全に新しいものを誕生させている。

By Jesse Locke · August 21, 2020

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