海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Gordon Koang, “Unity”

2013年、南スーダンでは2つの有力な部族、ディンカとヌアーの間に紛争が勃発した。この戦争は今年の2月に終結したが、それまでにおよそ40万人が死亡し200万人以上が難民となった。ヌアー族のベテラン・ポップ・スターであるGordon Koangも、国外に退去した市民の1人であった。戦争が始まった際、Koangはコンサートでオーストラリアを訪れていた。この危険な情勢を鑑みて、彼は故郷に戻らないという難しい決断を下したのだった。

Koangの11枚目のアルバム『Unity』はオーストラリアで難民生活を始めてから初めてとなる作品である。このアルバムの中で、彼はヌアーに伝わる伝統的な楽器やリズムを用いて故郷を称えている。しかし彼はまた、南スーダンの暗い側面も認識している。弾むようなリズムとソム(スーダンの弦楽器)の金属的な響きの上で、内戦の痛ましい現実が描写されている。“South Sudan” ではKoangはThok Naath(ヌアーの言語)で歌い、「あなた方の部族の名はヌアー、そして彼らはあなた方を拒んだ。そしてあなた方が充分に強ければ彼らはあなたを殺すかもしれない」と告げる。

時に深刻なテーマに触れるこの作品であるが、『Unity』に収められた音楽はスーダンのポップに根付いており、全体を通したメッセージは平和へと向かっていく。“Tiel E Nei Nywal Ke Ran” という楽曲のタイトルは「我々は誰とも問題を抱えていない」というような意味である。1曲目の“Asylum Seeker” は、自分が選んだ国での永住権を求める難民たちへの慰めとなっている。ヘヴィーなリズムと、2拍目を強調したまばらなベースラインと共に、この楽曲は長い旅路の苦しみを映し出しながらも、その歌詞には高揚感がある: “We know you have been waiting for a long time…our advice is this…You need to be patient(我々はあなたが長い間待ち続けてきたということを知っている…我々からのアドバイスはただ一つ…忍耐強くあれ)”。『Unity』は人間の最も暗い側面に触れているが、最後には聴き手を希望の方向へと導いてくれる。

By Jess Fu · August 13, 2020

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