海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Exotic Sin, “Customer’s Copy”

Naima KarlssonとKenichi Iwasaによるデュオ、Exotic Sinについて語る際、Karlssonの誉れ高い音楽家系の血統について語らないことは難しい。彼女の父親、Bruce SmithはThe Pop GroupThe SlitsPublic Image Ltd.のドラマーを務めていた。そして母親のNeneh Cherryスウェーデンの歌手である。しかしその一方で、この二人の『Customer's Copy』で聴かれるような、質素で自然発生的な音楽は、彼女の祖父母、DonとMokiのCherry夫妻の遺産を元手にしている。Don Cherryは当初Ornette Colemanとともにジャズ界隈に参入したのだが、すぐに伝統から脱却した熱狂的なミクスチャーへと方向転換することになる。フリー・インプロヴィゼーション、フォーク、伝統音楽、ドローンといった要素を組み合わせ、Cherryとその妻は自分たちの芸術を作り、それを生きるために地球上のあらゆる場所から様々なものを引っ張り出してきた。このデュオがCherry家の特異な、芸術や音楽の混合を祝福するような演奏をしているのはピッタリだといえる。

ここに収録されている3篇の中ではその伝統が息づいていて、時にはCherryの古い楽器も用いられている。オープン・エンディングでありながらきちんと調和の取れている、22分の ”Dot 2 Dot” は静けさから騒々しさに急激に切り替わり、秩序だったピアノのコーディングはパーカッションの爆発へと道を譲り、まだよちよち歩きの幼児が超越的な迷走を試みているかのようなサウンドを鳴らしている。そのほかの曲でも、この二人組はジャズや電子音楽の狭くも深遠なレガシー(Anthony BraxtonとJoseph Jarmanの探求的なコラボレーション『Together Alone』、Andrew CyrilleとRichard Teitelbaumの共作DonとJon Appletonのデュオなどを考えてみればいい)。深遠な思考を感じる ”Charlie Vincent” はゆったりとしたオルガンのトーンをインプロヴィゼーションの土台としながら、木管楽器や親指ピアノがそのうえでさ迷い歩いている。”Canis Minor” はそれよりもさらにゆったりと動き、チャイムと金属のスクラップが混ざり合ってなにか異質で美し音色となっているが、それは遺産を振り返るというよりは、楽しげに未来へと進んでいっているように聞こえるのだ。

By Andy Beta · August 17, 2020

https://daily.bandcamp.com/album-of-the-day/exotic-sin-customers-copy-review