海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 29: 60位〜56位

Part 28: 65位〜61位

60. Future: “March Madness” (2015)

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“March Madness” の大半では、Futureは自分の豪勢な暮らしを詳細に語っている。特にこの時期にあって、それは非常に真実らしくに聞こえた。このアトランタのラッパーは2015年、Drakeとのコラボ作『What a Time to Be Alive』や最高傑作の一つ『Dirty Sprite 2』のリリースによって非常に大きなブレイクスルーを経験していた。彼はヒップホップの第一線のアーティストの仲間入りを果たし、“March Madness” はその頂上からの景色を綴った曲である。そう、この曲は酔いつぶれて高級車でぶっ飛ばすことについての曲でありながら、Futureが外部の世界と隔絶しているわけではないことを明らかにする一曲でもあったのだ。“All these cops shootin’ n***as, tragic(この警官たちは黒人を撃つ、悲劇だ)” と彼は歌うが、これはMichael BrownやLaquan McDonaldの死から数カ月後に発表されている。優美なシンセのアルペジオ、デジタル・ベル、そして808の上で、Futureのヴォーカルのアクロバティックはリリックの中にある緊張――贅沢による怪我と、武装も防衛もしていないものに向けられる暴力の――を増幅している。–Evan Minsker

59. David Bowie: “Blackstar” (2015)

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「私はポップ・スターではない」。Bowieはこの10分近い、木管楽器のジャズ演奏、嘆くような合唱、ブリキのようなヴォーカルが矢継ぎ早に切り替わる楽曲のなかで高主張している。何度も自らを再発明してきた彼であるが、その最後の音楽活動は、彼らしい優雅さと尽きることのない好奇心をもって別れを告げる作業であった。25枚目となるアルバム『Blackstar』のタイトル・トラックは、すぐさまこのトーンを作り上げる:無頓着な行動と明るく、天国のような身体――絶望的な地獄の中で美しく輝いている――についての歌詞は元気づけられるような人間性を持って歌われ、楽曲のプログレ的な荘厳さを上回る共感性を備えている。スキット風の、多幕の構成と冷え切ったサックスのトーンが安易な結末を避けるように進んでいく:我々に与えられた最高のカタルシスは詩的に死を感じさせたミュージック・ヴィデオであった。その中でMajor Tomの孤独な死体が発掘され、それとともにこれまでのBowieのすべての壮観な人格たちが横たえられる。そして最後に残ったのは、深淵と真っ直ぐに見つめ、なんの答えも出さないという知恵を持った男だけだった。–Stacey Anderson

58. Miguel: “Adorn” (2012)

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 2012年、R&Bアイデンティティの危機の真っ只中にあった。このジャンルの最も輝かしい才能の持ち主でさえTop 40ラジオから締め出され、なんとかそのプレイリスト入りを果たした少ないアーティストたちは、当時のEDMの爆発に屈服することでそれを果たしていた。しかしMiguelは10年代初期の先見の明あふれるシングル群において、全くの逆方向を向いていた。”Adorn” はその年のクロスオーヴァーR&Bのヒット曲の中でR&Bらしさを感じることのできる数少ない楽曲の一つであった。この楽曲はそれでいて大胆に実験的なスタジオ・ワークであった:80年代のMarvin GayeLionel Richieにオマージュを捧げるつくりでありながら、まるでラケットボールのコートで録音したようなサウンドだったのである。反復するシンセと泡のようなベースと共に、”Adorn” はこの楽曲の異質な道をMiguelに歩かせ、彼の欲望に満ちたファルセットがその斜めの角度からどのように跳ね返ってくるかを探っている。彼はこの曲の中をぐるぐると回転しながら、呻くような声で歌い、その過程で恍惚とした開放感を瓶の中に閉じ込めたかのような、他に類のないサウンドを生み出したのだ:whawp! –Evan Rytlewski

57. Taylor Swift: “All Too Well” (2012)

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Taylor Swiftの『Red』に収録された隠れた名曲 ”Red” は、彼女を世界的ソングライターにまで上り詰めさせた全てが詰まっている:彼女のエモーショナルな知性、率直さ、歌詞の省略の美学、弱さの中に美を見出す能力が。Swiftは時を止めて小さなディテールに焦点を当てることで大きなストーリーを語っている。それは元恋人(Jake Gyllenhaalだとされる)が思い出として捨てられずにいるスカーフや、深夜のダンス・パーティを照らした冷蔵庫の明かりのような、ともすると背景でノイズになってしまうようなものだ。これらのものすごく詳細なディテールが、厳密に編纂され、Swiftが痛みと向き合えるように彼女を痛みから守ってあげている。“It was rare/I was there” と彼女が歌うとき、彼女は自分の存在をきっぱりと言ってのける。誰がその存在を平凡なものだと言おうと、彼女はそこにいたのである。曲が盛り上がるにつれて、最初はマイルドな雰囲気だったギターがエネルギーを増し、シンバルが鳴り響き、Swiftの声もつられて強さを増していく。しかし、その傷の深さを伝えるのにヴォリュームを上げる必要はない。このストーリーに大きく貢献しているのはその静かな部分である――彼女の傷ついた心についた傷を一つ一つ見れるように、聞き手は前のめりになって近づいていくのだから。–Olivia Horn

56. Vince Staples: “Norf Norf” (2015)

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もしもラッパーによって語られたアメリカの地図を作ることになったら、Vince Stapleのロングビーチほど精密に書き込まれる土地もないだろう。ノー”フ”・サイドではヤンキースの帽子が流行っていて、密告者は死ぬまで追い回され、『Boyz n the Hood』でRicky Bakerを撃ち殺したショットガンは未だに見つかっていない。Staplesがパーティと銃撃戦を行き来する中で、危険は求められ/回避される。死は拒まれ/受け入れられる。ギャングスター・ラップは軽蔑され、ギャングスターたちは耐え忍ぶ。

すべてのディテールが4Kで語られるが、スクリーンは点滅している。オバマが掲げた希望と変化の約束は満たされないままだ。Vinceのファミリーはついて回り、銃を持ち運ぶ宿敵たちも同じだ。その容赦ない緊張感を体現するかのように、Clams Casinoによるプロダクションは神経質な一斉射撃のようだ。ベースが身を震わせてはくすぶっている:シンセが脈打ちながら鳴り響く:クラップがヒリヒリと鳴る。故郷を誇りに思っているStaplesはこの不調和の中でくつろいでいるが、その代償を恥じることはない。自分の街を鮮明に見ているからこそ、彼は幻想を抱くことがない。永遠に逃げ切れるやつなんかいないのだ。–Stephen Kearse

Part 30: 55位〜51位