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<Bandcamp Album of the Day>Makaya McCraven, “Universal Beings E&F Sides”

新しいドキュメンタリー作品『Universal Beings』の中で、Makaya McCravenは彼特有のジャズのミックスの背後にある創作プロセスをこう説明している。まず、彼は様々なミュージシャンの集団と即興で生演奏をする。「そして、それをフリップするんだ」とこのシカゴを拠点にするドラマー/プロデューサーは語る。「そしてそれをさらにフリップできるような別の人に渡す。そしてそれがまたフリップされて…という形で、一つの音楽から5つや6つの次元を取り出すような、そんなクリエイティヴなやり方を気に入っているんだ」。McCravenはそのテクニックを存分に発揮し、バンドリーダーとビート・サイエンティストの境目をあいまいにするという効果を発揮している。

McCravenは『Universal Beings E&F Sides』で、新曲と2018年の高く評価されたアルバムにインスパイアされたリミックス曲を提供している。アルバムの1曲目 ”Everybody Cool” には、”A Queen's Intro” の原型がまだ聞き取れる――McCravenのH0L0の聴衆に対する温かい歓迎から、Joel Rossのリズミックなヴィブラフォンのコードまで――が、その速度はヒップホップに軸足を置いたストンプから散歩するような、トロピカルなグルーヴへと変わっている。”The Lonliness” は ”Prosperity 's Fear” のつづきのように始まり、すぐさまアレンジが霧のように溶けだしていき、Shabaka Hutchingsが彼のサクソフォンから静謐な音色を奏でだす。『E&F Sides』にはフルの楽曲も収められており、McCraven、ダブル・ベース奏者のJunius Paulとチェロ奏者のTomeka Reidの三人が後ろでやさしく演奏する中、静かにぐつぐつと煮えているようだ。”Butterss Fly” は ”Butterss's” のアップデート版である:ドラムはより速くなっているが、Jeff Parker、Carlos Niño、Miguel Atwood-Ferguson、そしてJosh Johnsonといったメンツが参加しており、素晴らしく禅(zen)の境地である。そこにこそ『Unicersal Beings E&F Sides』の、ひいてはMcCraven本人の素晴らしさが光っている。彼は古い素材を多用な用途に用い、新鮮でありながら耳馴染みのいいサウンドに作り替えている。すでに光り輝いている素晴らしいアルバムに新たな命を吹き込んでしまう彼は、ジャズ界で最もイノベーティヴなクリエイターの一人なのである。

By Marcus J. Moore · July 27, 2020

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