海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Shirley Collins, “Heart’s Ease”

Shirley Collinsが当初40年近い沈黙を破った時、彼女は暗闇を携えていた。50年代後期から70年代の終りまでの20年間、Collinsは英国フォーク・シーン復活のスターであった。彼女の声は柔らかくも力強く、それは霧の中に差し込む一筋の陽光さながらであった。彼女は冒険的で、多くのコラボレーションをいとわなかった。そして学術的には、元パートナーのAlan Lomaxと共にアメリカ南部をフィールド・レコーディングしながら回ったことで、過去と現在を結ぶ英国の中でも最も重要なリンクとなった。しかし離婚によるトラウマの苦しみによって彼女は歌うことができなくなり、彼女と同時代の多くのミュージシャンと同じく、彼女は半世紀もの間音楽活動から退いていた。2016年の出来的なカムバック作『Lodestar』で、彼女は裏切り、失望、そして死についてのフォーク・スタンダードを好んで取り上げた。赤子が船外に打ち捨てられた。女性が溺れ死んだ恋人を見つけ、その隣で命を絶った。”Old Johnny Buckle” でさえ、彼の妻に背を向けて悪魔と酒を交わした。

実存的な不安は再出発後2枚目となる『Heart's Ease』でも広く歌われている。蒸気砕氷船がカナダ北部の北極海座礁する。若者が愛する恋人であった船員を悼む。結ばれる運命に会った不運な二人は墓石の中でのみしか共に生きられない。しかしこれら12曲の優雅に作り変えられた楽曲たち――アラバマの混み合った教会のベンチやアーカンソーのでこぼこの丘、イギリスの田舎、そしてCollins自身の家族のアーカイヴから抜粋された――の中で、彼女は日や希望についてのヴィジョンを投げかけ、彼女の声には信頼を深められるような経験やニュアンスがたっぷり含まれている。”Locked in Ice” の中で氷に乗り上げてしまった船に乗っている命たちですら、「終わり泣きを旅をすると運命づけられてしまった」ながらも、なんとか耐えられるのではないかと思わせるのだ。「氷がどこへ流れていこうと、私も一緒に行く」彼女はそれを受け入れた上で、落ち着き払ってこう歌ってしまえるのだ。

今月で85歳になるCollinsは、”The Christmas Song” で新年の願いを朗らかに歌い上げるが、アコースティック・ギターのスチール弦が店内に置かれたハープシコードのような音色を奏でる。ディープ・サウスのセイクレッド・ハープ・シンガーの楽曲から取られた ”Wondrous Love” は、使途は永遠の自由への入り口であって、終わりではないと捉えている。Ian Keareyのスライド・ギターはデスタ・ブルースへの目配せをしながら、そのような精神の力の起源、そしてその持続力を示している。しかしここで最も市区剤的で力強いのは、”Sweet Greens and Blues” をおいて他にないだろう。1965年にCollinsの最初の夫=Austin John Marshallによって書かれた4つのヴァースは、二人の夫婦生活の門出について書かれたものである。Collinsはケンタッキーのギタリスト/活動家のNathan Salsburgに歌詞を手渡し、なにか新しいものを書いてほしいと伝えた。彼のきらびやかな伴奏は、Collinsの回想と同様に心を開いたものであり、まるで並行して流れる川が見えることのない信仰の場所へといざなわれていくかのようである。「もし今年うまく行かなくても、来年がどうなるか見てみよう」と彼女は歌う。その声は疲れ切っているようにも聞こえるが、笑っているようにも聞こえる。今聞くと、それはなんだか勇気づけられる考え方であり、それこそ我々が今必要としているものである。

By Grayson Haver Currin · July 28, 2020

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