海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Jenny O., “New Truth”

L.A.のシンガー・ソングライターJenny O.は、最新作『New Truth』の中で、ものを整理整頓することに慰めを見出している。“There’s a name for this, I’m sure/ Always pacing ‘round in revelation/ Repositioning the plants and paintings(これにはきっと名前がある/啓示の周りを歩き回って/植物と絵の位置を入れ替えたりする)”。”I Don't Wanna Live Alone Anymore” の楽天的な響きのメロトロンのリフの上で彼女はこう歌う。そして彼女が整理しているのはなにも、個人的な持ち物だけではない:『New Truth』は探求と、感情をふるいにかけることについてのサウンドである。自らを癒しに向けて道案内するような、そんな作品なのだ。

この作品の筋書きは、孤独からの自立という弧を描いて進んでいく。”Color Love” では、優しく重ねられたベースラインの上でO.は「待つ」という行為を讃えている:“Put on a record, let it move you/ Turn it over, listen to it all the way through(レコードをかけて、身を任せてみよう/裏返して、最後まで聴こう)”。太陽が降り注ぐサーフ・ポップ ”Even If I Tried” では彼女は静かな怒りを放っている:“The world keeps you turning/ And you, you fade away.(世界はあなたを振り向かせ/あなたは消えていく)”。アルバムの最後を飾る ”Seek Peace” ではO.は神聖な響きを持つヴォーカルのレイヤーとゆっくりとしたアルペジオの横で柔らかにハミングしている。それはまるで彼女が時を引き延ばし、至上の喜びの状態にとどまろうとしているかのようである。

『New Truth』は細心のアレンジの産物であり、O.が様々なざらざらとした音――鳴り響くギター、ミュートされたオルガンなど――をちょうどいい塩梅になるまで調整しようとする不断の努力を示している。そしてなにより、『New Truth』は忍耐というものに宿る力を見せてくれる。時間がたてば、何かいいものが現れるにきまってる。彼女も ”Hard to Say” で助言している:“Everyone can extricate themselves/ From a riddle they can’t solve/ A different kind of life(誰だってそこから脱出できる/解くことのできないなぞなぞからも/いろんな種類の人生からも)”。

By Alex Westfall · August 11, 2020

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