海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Carla J. Easton, “Weirdo”

2016年、当時はEtteという名義で活動していたCarla J. Eastonは『Homemade Lemonade』というアルバムを発表した。ビッグでラウドで、喜びに満ちた楽曲が詰まったこのアルバムは、SladeやThe Sweetの気取ったグラム感と、RobynやCarly Rae Jepsenの綿菓子のようなポップ感を見事に縫い合わせた作品であった。素晴らしい出来だったこのアルバムを、我々は2016年のベスト・アルバムで4位に選出した。その2年後に彼女は、今度は自身の本名名義で『Impossible Stuff』をリリースしたが、ここでは『Homemade Lemonade』の喜びに満ちた雰囲気を投げ捨て、生ぬるい「アダルト・コンテンポラリー」風の楽曲たちが多く収録されていた。前作を楽しめる作品にしていた要素であるきらめきや衝撃が欠けてしまっていたのだ。

そこからさらに2年がたった今、彼女は軌道修正したように見える。この『Weirdo』は徹底的に明るく、『Homemade Lemonade』のようなド派手な花火が戻ってきた。ヴォリュームの針がレッドゾーンに振れっぱなしで、コーラスの一つ一つがきらめいている。“Heart So Hard” がいち早く全体のトーンを設定する。『Homemade Lemonade』収録の “Attack of the Glam Soul Cheerleaders” の遠い親戚のようなこの曲は、ヴァースで徐々に緊張感を高めていき、コーラスでローマ花火のように爆発する。Eastonのしゃっくりのような歌声の周りにシンセが火花を散らしていく。同じくスコットランドのポップ・アーティストであるHoneybloodを迎えたタイトル曲では、シンセのディープ・ベースとギターの音が互いに溶け合い一つの巨大な音の彗星を作り上げ、それによって半オクターブ上がるコーラスの奇妙さとのバランスをとっている。“Catch Me If I Fall” はもう一つのバンガーで、ギターが孤立したコードを「・・―」のパターンでかき鳴らすとEastonが導火線に火をつけ、この曲の吐息交じりの、滑空していくようなコーラスを宙に打ち上げる。“Signing it in Blood” のような美しいバラードでさえも70mmフィルムのように壮大で、抗いがたいクオリティを持っている。夏がどんどん和らいでいく時期に突入したが、Eastonは最後にさくらんぼのかき氷のように甘く、最初から最後まで満足できるポップ・ミュージックを提供してくれた。

By J. Edward Keyes · August 24, 2020

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