海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Weekly Music Review #70: グソクムズ『グソクムズ』

「ネオ街風」というキャッチコピーを聴いたとき、正直「またこれか」と思ってしまった。はっぴいえんど直系なんて、2021年に新しくは必要ない。そう思って聴き始めたけれど、想像していた音とは少し違った。ときに峯田和伸のような響きにも聞こえるボーカル…

Weekly Music Review #69: Russ『CHOMP 2』

ラッパーのRussを一言で表すならば、「努力の人」と言うことに尽きるだろう。キャリアの始まりは2011年。思っていたほどの注目を集められなかった彼は、約3年間もの間、SoundCloudで毎週新曲を発表し続けた。そのように、地道に地道にファンベースを広げ続け…

Weekly Music Review #68: Arca『KICK ii』『KicK iii』『kick iiii』『kiCK iiiii』

Arcaの「KICK ii」をApple Musicで KICK ii - Album by Arca | Spotify Arcaの「KicK iii」をApple Musicで KicK iii - Album by Arca | Spotify Arcaの「kick iiii」をApple Musicで kick iiii - Album by Arca | Spotify Arcaの「kiCK iiiii」をApple Musi…

Weekly Music Review #67: RADWIMPS『FOREVER DAZE』

RADWIMPSの「FOREVER DAZE」をApple Musicで FOREVER DAZE - Album by RADWIMPS | Spotify RADWIMPS特集の関ジャムを見た。この番組によるとRADWIMPSは「常に最先端」で「韻の踏み方がすごく」て「天才」なのだそうだ。なるほど、テレビって今こんな事になっ…

Weekly Music Review #66: Adele『30』

今年はイギリスのブラック・ミュージック(特にソウル〜R&B)の良作が相次いだ。Arlo Parks、Celeste、Jorja Smith、Ray BLK、Greentea Peng、Jungle、Sault、Cleo Sol、Little Simz…などなど。Black Midi、Dry Cleaning、Black Country, New Road、Squid、I…

Weekly Music Review #65: Courtney Barnett『Things Take Time, Take Time』

コートニー・バーネットの「Things Take Time, Take Time」をApple Musicで Things Take Time, Take Time - Album by Courtney Barnett | Spotify うーん。フジロックで観たときはとにかく超カッコいいロッカー、というイメージだったのだけれどなあ。3作目…

Weekly Music Review #64: Dijon『Absolutely』

James Blake、Frank Ocean、Bon Iverといったテン年代の巨人たちは、R&B〜ソウルというサウンドをインティー・ロック界に持ち込み、内省の風潮を男性と結びつけ、やがてそれは多くのベッドルーム・アーティストたちを生み出した。人種・ジェンダー・演奏スキ…

Weekly Music Review #63: Ed Sheeran "="

エド・シーランの「=」をApple Musicで = - Album by Ed Sheeran | Spotify www.youtube.com 運命的な出会いをした女性との恋路を過剰な演出で描く。エルトン・ジョン風の衣装をまとうシーンも。最後は中世の騎士に変身するも、ヘタレなオレっち、というオチ…

Weekly Music Review #62: Parquet Courts "Sympathy for Life"

Parquet Courtsの「Sympathy for Life」をApple Musicで Sympathy for Life - Album by Parquet Courts | Spotify 今年日本で劇場公開されたデヴィッド・バーンのライヴ映画『アメリカン・ユートピア』が、音楽映画史に残る大大傑作であったことに異論を唱え…

Weekly Music Review #61: BLACKSTARKIDS "Puppies Forever"

BLACKSTARKIDSの「Puppies Forever」をApple Musicで Puppies Forever - Album by BLACKSTARKIDS | Spotify BLACKSTARKIDS "Puppies Forever"(2021) Remi Wolf "Juno"(2021) なんだかこの2作は同日にリリースされたということや、"Juno"というタイトル(前者…

Weekly Music Review #60: Don Toliver "Life of a DON"

ドン・トリヴァーの「Life of a DON」をApple Musicで Life of a DON - Album by Don Toliver | Spotify Don Toliverの名前を初めてきちんと認識したのは、2019年の暮れにリリースされた、Travis Scottが主宰するレーベル=Cactus Jackのローンチ・コンピレ…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Sparks: No.1 in Heaven

ELEKTRA • 1979 パンクは70年代のロック・エスタブリッシュメント層を揺さぶったが、ディスコはさらにその先を行った。安全ピンや皮肉な鉤十字は、ワンピースのジャンプスーツやブギー・シューズを前に太刀打ちなどできなかった。1979年7月12日、シカゴで開…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Fugees: The Score

COLUMBIA • 1996 1994年の夏、Fugeesは契約を切られる瀬戸際にいた。このニュージャージーのヒップホップ・トリオによるデビューLP『Blunted on Reality』はKool and the Gangのカリス・ベイヤンがプロデュースを務めたのだが、当時人気だったアグレッシヴな…

<Pitchfork Sunday Review和訳>The Flying Burrito Brothers: The Gilded Palace of Sin

A&M • 1969 1960年代後半、ヒッピー嫌いのカントリー・ミュージック・ファンが多く訪れていたノース・ハリウッドのバー「パロミノ」で、グラム・パーソンズが初めてオープン・マイク・ナイトに出演したときのことだ。お気に入りのサテンのベルボトムを履き、…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Joan Armatrading: Joan Armatrading

A&M • 1976 ジョーン・アーマトレイディングは、自己の内面の神秘を感情のリズムに敏感に調和させ明瞭に描き出す。それは最もひどい絶望ですらなんとか耐えうるものに聞こえてくるほどだ。そして彼女はあなたにほほえみをもたらすだろう。アーマトレイディン…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Sonny Sharrock: Ask the Ages

AXIOM • 1991 ソニー・シャーロックはギターを弾きたいと思ったことがなかった。彼は初めてその楽器を手にしたときそれを嫌いさえした。1960年、彼が20歳のころである。そして彼は自身の表現の可能性を急激に広げ、自分のヴィジョンに合うように作り直し、さ…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Speaker Knockerz: Married to the Money II #MTTM2

TALIBANDZ ENTERTAINMENT • 2014 サウス・カロライナ州コロンビアに住むデレク・マカリスター・Jr.は16歳でお金がなく、ほかのティーンエイジャーたちと同じように、遊ぶお金が欲しいと思っていた。彼はファストフード・チェーンのZaxbysの仕事に応募してい…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Lync: These Are Not Fall Colors

K RECORDS • 1994 Lyncが活動していたのはたったの2年間であり、それは長い歴史に一瞬だけ現れた点のようなものである。1992年の暮れから1994年の間の短い活動の間に、ワシントン州オリンピアの3人組は4枚の7インチと、3つのコンピ盤参加曲、そして唯一のLP…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Joyce Manor: Joyce Manor

6131 • 2011 ソーカル(カリフォルニア南部)のポップ・パンクを約半世紀にわたって保ち続けてきた、地下室やボーリング場のビールにまみれたエコシステムの中から、ジョイス・マナーは出現した。しかしバリー・ジョンソンは、パンクの流行のテイストを担う…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Alicia Keys: Songs in A Minor

J • 2001 1998年の夏、アリシア・キーズはすでに彼女のデビュー作『Songs in A Minor』をほぼ完成させていた。しかし彼女が所属するコロンビア・レコードは違う方向性を目指したほうがいいと告げた。そう、彼女はクラシックの教育を受けたピアニストであり、…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Anita Baker: Rapture

ELEKTRA • 1986 「クワイエット・ストーム」とは、70年代末期に、小石のようにすべすべとしたR&Bのバラ―ドに対して名付けられたブラック・ラジオ用語である。サブジャンルの名前がそれ自体に最適な文脈を示唆する形で名付けられることは珍しいことだ。アイズ…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Nina Hagen: Nunsexmonkrock

CBS • 1982 ニーナ・ハーゲンはドイツ出身で、オペラを歌い、パンク・ロック文化の発火点となった人物である。1980年にメジャー・レーベル契約を結びキャリアをスタートさせた彼女はヨーロッパで莫大な売上を記録し、多くのファンが彼女が演奏する空間を埋め…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Yellow Magic Orchestra: BGM

ALFA・1981 日本式のアクロニムで、「BGM」とは「バックグラウンド・ミュージック」を意味する。それはYellow Magic Orchestraの細野晴臣の80年代の至福のアンビエント作品を想起させる。どこか牧歌的で、ヒップでマスマーケット的な衣料店から流れてくるよ…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Genesis: Duke

CHARISMA • 1980 1980年代、名声の有頂天にいたフィル・コリンズは、たくさんの、たくさんの批評家に向けて手紙を書くようになっていた。ドラマーからボーカルへと転向したジェネシスの一員として、そして一連のブロックバスター的ソロ作を通じて、彼ほどの…

<Bandcamp Album of the Day>arious Artists, “J Jazz Volume 3: Deep Modern Jazz from Japan”

J Jazz Volume 3: Deep Modern Jazz from Japan by BBE ジャズ熱愛家のTony HigginsとMikee Pedenによって編纂された、BBEの『J Jazz: Deep Modern Jazz From Japan』は、引き続き日本の豊かなジャズの歴史を熱心に紹介してくれている。シリーズ3作目となる…

<Pitchfork Sunday Review和訳>Katy Parry: Teenage Dream

Capitol / 2010 勝負の時が来たならば、その時が勝負のときである:『Teenage Dream』は終わることのないサマー・バケイションを約束してくれる。それは仮死状態の中で生きていて、常に週末を楽しみにしていて、決して仕事に出かけることなどない。ケイティ…

<Bandcamp Album of the Day>Jimmy Edgar, “Cheetah Bend”

CHEETAH BEND by JIMMY EDGAR Jimmy Edgarは常に予測不可能なアーティストである。このデトロイト出身の天才児は、多くのエレクトロニック・ミュージックのサブジャンルや多様なコラボレーターの間を行ったり来たりしながら、自身の創作の行く先が向くままに…

<Bandcamp Album of the Day>Nightshift, “Zöe”

Zöe by Nightshift Nightshiftの『Zöe』を聴けば、自分のレコードコレクションを整理したいという気持ちになるだろう。しかし30分後、あなたは引っ張り出したアルバムを全く整頓できないまま、レコードに囲まれて座っているだろう。これは過剰に自意識が強か…

<Bandcamp Album of the Day>Bunny Scott, “To Love Somebody”

To Love Somebody by Bunny Scott ジャマイカのキングストンにあるLee "Scratch" PerryのBlack Ark Studios――Bob Marley and The WailersやJunior Murvin、Max Romeo、The Congos、The Heptonesなどをもてなしたのと同じホール――で制作されたBunny Scottの『…

<Bandcamp Album of the Day>Senyawa, “Alkisah”

Alkisah by Senyawa Wukier Suryadiの自作楽器とRully Shabaraの多彩な声が特徴のインドネシアの二人組Senyawaは、ジャワのフォーク音楽――古代のメロディ、秘術的なリズム、弓でかき鳴らされる弦楽器――と即興演奏、過激なヴォーカルのスタイル、ヘヴィな雰囲…