海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

2019-01-01から1年間の記事一覧

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 20: 105位〜101位

Part 19: 110位〜106位 105. Kendrick Lamar: “DNA.” (2017) www.youtube.com 韻を踏んでいる歌詞をつなげるだけではなく、それらに主題を託し、大きなアイデアをマントラの形に落とし込むような枠組みをつくりあげることは、真のラッパーであるかどうかを試…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 8: 130位〜121位

Part 7: 140位〜131位 130. Tame Impala: Lonerism (2012) 本質的には『Lonerism』とは、常にアウトサイダーのような気分であることの意味についての、神経質で深く内省に潜ったアルバムである。それが多くのフォロワーを生み、Tame Impalaをメインストリー…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 19: 110位〜106位

Part 18: 115位〜111位 110. Chairlift: “I Belong in Your Arms” (2012) www.youtube.com ブルックリンのシンセポップの審美家、Chairliftは2016年の解散に至るまで、密かに影響のあるアクトだった。ブログ時代のColumbiaのレーベルメイトであるPassion Pit…

<Pitchfork Sunday Review和訳>My Chemical Romance: Three Cheers for Sweet Revenge

つまはじかれた者たちのアイコンとなった、オペラティック・ポップ・ロックの巨塔 ドナとドナルドのウェイ夫妻は、犯罪組織やギャングの裁判でニュース番組によく取り上げられているニュージャージーの郊外、小さく陰気なベレヴィル郡の中でもとりわけ寂れた…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 7: 140位〜131位

Part 6: 150位〜141位 140. Parquet Courts: Sunbathing Animal (2014) ポップが主流となり、インディー・ロックにとってはこの上なく居心地のよかったこの時代において、Parquet Courtsは時代に取り残されることを選んだ。愉快でファニーな2012年の出世作『…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 18: 115位〜111位

Part 17: 120位〜116位 115. The Weeknd: “The Morning” (2011) www.youtube.com これはポップ版『アメリカン・サイコ』―退廃的なもの全てと、我々の時代における胸糞悪いことを少し足してできた作品―である。そしてこれはThe Weekend、R&B界のダークナイト…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 6: 150位〜141位

Part 5: 160位〜151位 150. Playboi Carti: Playboi Carti (2017) このセルフ・タイトルのミックステープによって出現する前、Playboi Cartiはなぞの人物だった:アトランタ・ネイティヴの彼のサウンドクラウドのページは公開された秘密の隠れ家であり、門番…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 17: 120位〜116位

Part 16: 125位〜121位 120. Justin Bieber: “Sorry” (2015) www.youtube.com “Sorry”という曲は実に奇妙な怪物である。Shabba Ranks風のカリビアン・フュージョンのビートの上に、上品に切り取られたポップなメロディを移植することで、SkrillexとBloodPop…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 16: 125位〜121位

Part 15: 130位〜126位 125. Lykke Li: “I Follow Rivers” (2011) www.youtube.com Lykke Liはかつて、“I Follow Rivers”を書き上げたきっかけとなった圧倒的な欲望を「自然の力」になぞらえた。相手の思惑のなすがままになった末に「声を失ったみたいに」感…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 5: 160位〜151位

Part 4: 170位〜161位 160. Noname: Room 25 (2018) Nonameはかつて自身の柔らかな音色と落ち着いた調子をさして、「ララバイ・ラップ」であると言い逃れをしたことがある。それは素晴らしいツイートだったが、ララバイは連署に値しなかった。『Room 25』は…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 15: 130位〜126位

Part 14: 135位〜131位 130. A$AP Rocky: “Peso” (2011) www.youtube.com “I be that pretty motherfucker”。この10年のラップ・ソングの中で、この5つの単語ほどすぐさまアイコニックになったフレーズで幕を開ける曲があっただろうか?“Peso”がブレイクした…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 4: 170位〜161位

Part 3: 180位〜171位 170. Skee Mask: Compro (2018) 表面上、このBrian MüllerのSkee Maskとしての出世作は、Aphex Twin風に燃え盛るようなドラムパターンをゴージャスなアンビエントと融合させる試みに見える。しかし何度も聞いているうちに、この『Compr…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 14: 135位〜131位

Part 13: 140位〜136位 135. Robyn: “Honey” (2018) www.youtube.com “Honey”はRobynの楽曲の中でも淫らな部類の一つである。脈打つハウス・ビートにセットされた、午前3時のブーティー・コール。この曲はゆっくりと流れ、ガタガタ鳴るハイハットとストロボ…

<Pitchfork Review 和訳>Kanye West: Jesus Is King

7.2 キリスト教信仰はカニエのゴスペル・アルバムにおいて揺らぐことのない焦点である。これはある男の神(そして自分自身)に対する愛についての、豊かにプロデュースされていながらも欠点だらけのアルバムである 1964年、ミシシッピ州ロングデールのある田…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 13: 140位〜136位

Part 12: 145位〜141位 140. Rae Sremmurd: “No Type” (2014) www.youtube.com 2014年、Rae Sremmurdは当時スーパープロデューサーとしての頂点を極めていたMike WiLL Made-Itに後押しされ、あの伝染力の高い“No Flex Zone”でスポットライトを浴びた。多くの…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 12: 145位〜141位

Part 11: 150位〜146位 145. Charli XCX: “Gone” [ft. Christine and the Queens] (2019) www.youtube.com ほぼ10年もの間、朝5時までパーティーしているようなレイヴ好きのクラブっ子というブランディングをしてきたCharli XCXだが、そのイメージにもヒビが…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 3: 180位〜171位

Part 2: 190位〜181位 180. Chvrches: The Bones of What You Believe (2013) 理論上、そんなことはうまく行くはずもなかった。気難しく、猫背で歩くようなグラスゴーのポスト・ロック・バンドの中年元メンバー2人が、第3世代のエモを聴いて育った若いシンガ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 11: 150位〜146位

Part 10: 155位〜151位 150. Nicki Minaj: “Beez in the Trap” [ft. 2 Chainz] (2012) www.youtube.com 2012年、Nicki Minajはラップ/ポップ/クレディビリティにまつわる論争の中心にあった。その年の6月に行われたニューヨークのラップ・ラジオ局Hot 97主…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 10: 155位〜151位

Part 9: 160位〜156位 155. Kanye West: “Blood on the Leaves” (2013) www.youtube.com “Blood on the Leaves”はこの10年でKanyeを偉大に、そして同時に惨めにもしたものの縮図である。彼があまりにも何かを美しく成し遂げるものだから、我々は彼が下手にや…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 2: 190位〜181位

Part 1: 200位〜191位 190. Huerco S.: For Those of You Who Have Never (and Also Those Who Have) (2016) Huerco S.はダンス・ミュージックの特徴(ビート、ベースライン、前に進んでいく駆動性)を消し去ったテクノを作り始めた。その引き算のプロセスは…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 9: 160位〜156位

Part 8: 165位〜161位 160. Odd Future: “Oldie” (2012) www.youtube.com “Oldie”はマトリョーシカで、一番内側のご褒美はあの伝説のサモアへの「亡命」以来初めてEarl Sweatshirtが姿を現したということだ。『The OF Tape』の最後を飾るこの曲にはクルー全…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 8: 165位〜161位

Part 7: 170位〜166位 165. Jessica Pratt: “Back, Baby” (2014) www.youtube.com Jessica Prattの2作目『On Your Own Love Again』には、まるで家の中で吹雪を待つような人を孤独にする力がある。その他の靄のかかったような収録曲の中で、この“Back, Baby”…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 7: 170位〜166位

Part 6: 175位〜171位 170. Lil Peep: “Kiss” (2016) www.youtube.com Lil Peepの“Kiss”はまるで、2〜3の曲が千鳥足で一緒に家に帰ってきたようなサウンドである。ギターのサンプルはModern Baseballのものかもしれないし、Lil Peepによるものかも知れない。…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 6: 175位〜171位

Part 5: 180位〜176位 175. Nicki Minaj: “Come on a Cone” (2012) www.youtube.com Nicki Minajは糖分過多のポップ・ラップ・アンセムを連発しスターに上り詰めた一方で、この年代を代表する凶暴なMCであるというステータスはこの“Come on a Cone”のような…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 1: 200位〜191位

2010年代。プレイリストが関係のない曲たちで溢れ、アルゴリズムがリスナーを全方位から撃ち尽くす時代にあって、フル・アルバムのリリースというものがアンティークになりつつあるように感じられる。しかし優れたアーティストはいつの時代にあっても彼らの…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 5: 180位〜176位

Part 4: 185位〜181位 180. Sons of Kemet: “My Queen Is Harriet Tubman” (2018) www.youtube.com アメリカの財務長官は未だに奴隷制廃止論者=ハリエット・タブマンを冠した新20ドル紙幣について難色を示し続けている。一方で、自家製のハリエット・タブマ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 4: 185位〜181位

Part3: 190位〜186位 185. Sharon Van Etten: “Seventeen” (2019) www.youtube.com Sharon Van Ettenのベスト・ソングとは、その抑制によって傑出していることが多い。彼女のハスキーで音域の広い声と濁ったギターサウンドには脱線しそうな感覚があるが、そ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 3: 190位〜186位

Part 2: 195位〜191位 190. Ty Dolla $ign: “Paranoid” [ft. B.o.B] (2013) www.youtube.com Ty Dolla $ignの最大にして最良のこのシングルは、この10年の前半の多くのヒット・ソングと同じく、プロデューサー・DJ Mustardのミニマリストなタッチ、R&Bとハウ…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 2: 195位〜191位

Part 1: 200位〜196位 195. Cloud Nothings: “I’m Not Part of Me” (2014) www.youtube.com ゼロ年代からテン年代へ移り変わる中で出てきた有象無象のローファイ・ポップ・パンカーの中で、Cloud Nothingsのフロントマン・Dylan Baldiは歳を取るごとにヤバく…

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 1: 200位〜196位

まえがき 2010年代、技術の進歩によって音楽の制作、流通、聴取が歴史上のどの時期よりも容易となった。アーティストとプロデューサーはクラウドを通じてコラボレートし、エモ・トラップ、EDM・バラード、インディー・R&B、ベッドルーム・ポップなどとまるで…