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<Bandcamp Album of the Day>A.G. Cook, “7G”

PC Musicの長であり、Charli XCXのクリエイティヴ・ディレクターでもあるA. G. Cookは2020年5月19日、Potor Robinsonが主催したSecret Skyフェスティヴァルにおいて「アコースティックEDM」セットを披露した。Cookはアコースティックギターを爪弾いてパフォーマンスを始めると、今はなきKinsella兄弟(とWilliam Corganを少し)を思い出させるようなファルセットの甘い歌声で歌い始めた。彼が有名であるところの容赦ないほどエクスペリメンタルなポップではなく、である。程なく彼は自身の手によるCaroline Polachekのリミックスのリミックスを始めるのだが、その一瞬に、我々は馴染みのないA. G. Cookの側面を垣間見たのであった。

色んな意味で、このSecret Skyでの短いセットはCookの(この名義では初となる)フル・アルバムに向けたアペタイザーとして機能し、新しいサウンドをちらつかせながらも、不安にさせながらもどこか魅惑的なアヴァンギャルドなポップを作る才覚を示した。『7G』はなんと7枚組のデジタル・ボックス・セットであり、一つ一つのディスクが一つずつのインストゥルメンテーションに特化した作品になっている。例えば『A. G. Drums』の各楽曲はパーカッションが前面に出て、至福のエンディングを迎える。ジャンルの実験精神に満ちたローラーコースターのような作品で、彼の作品の中でも触れやすいものに親しんできた人たちは面食らうだろう。Cookの最良の仕事に多く見られる優しさは『A. G. Guitar』でより顕在化していて、このディスクではSecret Skyのセットからも何曲か再録されている(Owen風の ”Being Harsh” と2016年のシングル ”Superstar” のアコースティック・ヴァージョン)。セットの中に多く含まれていたカヴァーの中で最初を飾るのはBlurの ”Beetlebum” で、Cookの手によってNirvanaのB面曲へ作り変えられていて、Cobain風のヴォーカルすら聴かせてくれる。Cookの作品の中に滲み出ているゼロ年代初期のポップへの愛情が、彼の音楽に対する庵クールな趣向を明らかにしている。だから彼がその後エモ、ブリットポップグランジといったジャンルを、彼の拡張し続けるパレットに追加していくことはさほど驚きには感じられない。『A. G. Supersaw』でのCookは最も不吉な存在感を発揮していて、ファズで覆われたありとあらゆる邪悪なサウンドを波形を用いて作り出している。『A. G. Piano』ではCookが植松伸夫の模倣を最良の形でやっている。『A. G. Nord』はおそらくすべてのディスクの中でも最も多様性に満ちていて、Taylor Swiftの ”The Best Day” を賛美歌風にカヴァーしたり、その次の ”Triptych Demon” ではデジタル不協和音を聞かせる。最後の2つのディスク『A. G. Spoken Word』と『A. G. Extreme Vocals』は全体のセットの中でも最も強烈な瞬間をいくつか用意していて、”No Yeah” では不安定で掻き立てられるような囁きがあり、”Hold On” では悪魔のような遠吠え、そしてSiaの ”Chandelier” を個室のカラオケルームで堂々と歌い上げるカヴァーが収録されている。

『7G』は無秩序に広がっていくような作品であり、Cookのこれまでの作品をまとめ上げたものでもあり、彼が今後向かっていくかもしれない方向性でもある。49もの楽曲が一つも埋め草に感じられることなく、それどころかポップ・ミュージックの可能性を一つ一つ見せてくれるようなものになっているということはCookの才能の何よりの証左である。

By Ed Blair · August 12, 2020

A.G. Cook, “7G” | Bandcamp Daily