海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Black Soprano Family, “Benny the Butcher & DJ Drama Present: Black Soprano Family”

Black Soprano FamilyのBenny the ButcherとDJ Dramaという組み合わせは、一聴すると興味深い提案のように聞こえる。Griseldaの一員であるBennyは、90年代イースト・コースト・ヒップホップの煤けたサウンドとアプローチを再び活性化させようとする新世代のアーティストの一群に属している。その一方でDramaはゼロ年代初期の『Gangsta Grillz』ミックステープ・シリーズによって知られている。このシリーズはT.I.やLil Wayneといったラッパーをフィーチャーし、やがて ”ゴールデン・エラ” に取って代わることになるトラップのサウンドを一躍有名にした。だからこそ、『Black Soprano Family』における最大のサプライズは、この両者が実はかなり相性がいいということである。Dramaが用意したプロデューサーたちは一つ一つの楽曲でブンブンと唸る、シネマティックなシンセ・ストリングを鳴らしていて、Bennyのクルーは一つ一つのラインに喜びを込めている。

クルーの名前からもわかるように、これらの楽曲は『The Infamous』や『Cuban Linx』の大きな流れを汲む、ファンタジー・クライムの語り口である。しかしこれら2つのアルバムには鋼鉄のような凄みがあったのに対し、『Black Soprano Family』に流れているのは純粋で、楽しんで語られるような虚勢である。荘厳で強烈な ”Grams in the Water” では、這うようなベースラインと明滅するマイナー・キーのオルガンが一連の皮肉の効いたボースティング(Benny曰く、“I put coke-white seats inside a lime-green Tesla(ライムグリーンのテスラの中にコカインみたいに真っ白なシートを入れるぜ)”)にピッタリのムーディーな背景を提供している。”Love With the Streets” はさらに良い。スパニッシュ・ギターのホコリと、舞い上がるような女性ヴォーカルのループ、そして引き締まったビートの上でSopranoのメンバーであるHeemが、めまいをさせるほどの音節を畳み掛ける。“I’m a rare breed/ Not the type that you hand feed/ Shots from the 40 cal will make ‘em stampede/ My hand squeeze? First thing you see is head bleed/ Damn! Gotta clear the scene/ That boy gonna need a med team.(俺は見たことのない種だ/手懐けられるようなタイプではない/.40S&W弾で奴らは逃げ惑う/俺の手を捻り潰す?お前は頭から血を流すことになる/ちくしょう、現場を片付けなyきゃならない/あいつには救護班が必要だ”)。実のところ、『Black Soprano Family』に信心スターがいるとすれば、それはHeemである。彼は比較的新参者であり、狙撃手のようなリリシズムと、ラップする際の生々しい肉体性を兼ね備えた彼のラップは強烈な衝撃を与えながらも、心象風景を映画のように映し出している。そのクオリティは ”Valarie” でまたも聞き手をくらくらさせる。この曲は彼一人をフィーチャーし、Heemはクライム・ファンタジーのより暗い一面を臆面もなくさらけ出している。“Summertime, the neighborhood smells like gunsmoke/ Every time that flip phone rings, somebody wants coke/ dead broke, so the streets was my last hope/ …The pain deep, lost homies on those same streets/ N—s played pickup games, now they’re six feet/ The streets cold, n—s fucking up the G code/ So I went and bought more hammers than Home Depot.(夏になると、近所は銃の煙の匂いが充満する/電話が鳴るたびに、誰かがコークを欲しがっている/死ぬほど金無し、だからストリートこそが俺の最後の希望だ/…痛みは深い、同じストリート出身の仲間を失った/一緒にバスケをしたあいつも、今は地面の中で眠っている/ストリートは冷たい、あいつらはGの掟を破った/だから俺はホーム・デポよりも大量のハンマーを買い込んだのさ”。

BennyとDramaのどちらかの長年のファンであれば、恐れることはない。”Gangsta Griz-ills!” “The Butcher’s coming!” と言ったおなじみのキャッチフレーズもふんだんに使われている。しかし『Black Soprano Family』をその入場料に見合ったものにしているのはBennyのクルーの中の新しい声であり、Dramaのセレクターとしての衰えのなさの証明である。『Black Soprano Family』は26分程度の作品で、それはテレビの犯罪ドラマの半分の長さである。しかし、その間にその3倍ものパンチをお見舞いしてくれる。

By J. Edward Keyes · July 30, 2020

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