海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

<Bandcamp Album of the Day>DJ Earl, “Bass + Funk & Soul”

デトロイト、メンフィス、フィラデルフィア、そしてアトランタといった他のアメリカの大都市と同じように、シカゴの歴史とアイデンティティもまた、そこに暮らす黒人労働者階級の住民たちの音楽と切っても切り離せない関係にある。戦後期のジャズ・ブームから50年代のエレクトリック・ブルース、豊かなソウル・ミュージック・シーン、ヒップホップ、そしてそれ以降の動きに至るまで、シカゴは音楽の創造性の温床で有り続けてきただけではなく、この街のブラック・ミュージックの歴史は長く、相互につながった連続体として存在してきた。

この街で生まれ発展した速いテンポのダンス・カルチャー=フットワークはシカゴの豊かな音楽的歴史の中でも最もカッティング・エッジな発展の一つに代表される。DJ Earl(フットワークの先駆者的クルー=Teklifeの一員)の最新作『Bass + Funk & Soul』はジャズ、ファンク、ソウル・グルーヴを巧みにサンプリングし、彼の未来的なサウンドに文化的祖先とも言えるそれらの要素を接続している。アルバムはサックス・ソロとボーカル・ハーモニーの断片をサンプルしや千木場屋のエディットと弾むようなリズムのトルネードの中に放り投げるような熟達の技 “BAAAAAA” で幕を開ける。“SHITZ AIN'T SAFE NO MO” ではEarlは70年代のスウィート・ソウルを完全に新しい作曲へと見事に作り変えている。明るくメロディックな楽器のサンプルを “Shit just ain’t safe no more” と我々に警告する繰り返される声と対置することによって、この曲は高揚感と圧迫感を兼ね備えたものになっている。

フットワークの基本である160超のBPMで飛び交う複雑なリズムとありえないくらいヘヴィなベース以上に、『Bass + Funk & Soul』で輝いているのは刻まれたメロディと感動的なボーカルである。DJ Earlはそのテクニックのテクニックを用いてダンス・ミュージックのソウル的なルーツへとさかのぼり、その過去の断片を未来への道筋への手がかりとして使っている。

By John Morrison · December 01, 2020

daily.bandcamp.com