海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part30: 55位〜51位

Part29: 60位〜56位

55. Bat for Lashes: “Laura” (2012)

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タイトルにもなっている登場人物「Laura」は危機に陥っている夢追い人で、群衆に置き去りにされパーティーに疲れ果てた社交界の名士である。Natasha Khanだけが彼女の傍に寄り添い、彼女は甘美で壮絶なバラードの中で自身のすべてを捧げて失われた友を支えようとしている。Khanのように舞い降りて、私達は生まれつきスーパーヒーローなのだと演説を打ってくれるような人物を私達は全員切望していて、“Laura” はただのトリビュートではない。それは礼拝であり、記念碑である。「あなたは彼らよりも長い間忘れられないだろう/あなたの名前は男の子全員の肌に刻まれる」とKhanは泣き叫ぶ。Lauraのことはあまり知られていないかもしれないが、Khanの信念のオーラの中で、私達は彼女の栄光を知っている。–Jazz Monroe

54. Disclosure: “Latch” [ft. Sam Smith] (2012)

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この “Latch” で、Disclosureは珍しいワンツーパンチを決めることに成功した:このUKデュオは自分たちの力でダンス・ミュージック界の重鎮となっただけではなく、彼らは実のところ全く新しいポップ・スターを世界に紹介したのである。この曲が至るところで聴かれるようになり、リリースから2年後にアメリカでチャートの7位にまで上り詰めると、この曲は12トンのドロップに飽き飽きしていたEDMのオーディエンスや、群衆に向けて「手を上げろ」と叫んでいた男たちをも魅了してしまった。新鮮なオルタナティヴとして、GuyとHoward Lawrenceは破壊不可能なハウス・ビートと、通常チャートに入るような曲よりもむしろジャズ(やSteely Danのアルバム)によく見られるようなコードの拡張を用いたトラックを作り上げ、Sam Smithがその驚異的なボーカルを開放する場を提供した、今日に至るまで、この曲は二人の兄弟とラップトップ、そして無名のスーパースターが世界を動かすことができるという民主化されたプロダクションというすばらしい新世界の証左で有り続けている。–Noah Yoo

53. Solange: “Losing You” (2012)

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“Losing You” は一つのラブ・ストーリーの結末であると同時に、新たなSolangeの始まりでもある。この曲は2つの重要なプロジェクトの間にリリースされた:モータウンへの古風なラブレターのようでもあった『Sol-Angel and the Hadley Street Dreams』の4年後、そして文化自体を変えてしまうような政治的粛清であった『A Seat at the Table』の4年前のことだ。プロデュースと共同作曲をBlood OrangeのDev Hynesが努めたこの “Losign You” とそれが収録されたEP『True』は、Solangeを洗練される運命にある明確なヴィジョンを持ったインディーR&Bの寵児に変えてしまった。この失恋のバラートはその内容に見合わず快活である。折り合いのつかないものの終焉によって向かうべき方向を失った彼女は、その関係性が一晩中愛し合ったようなものから完全な静止状態へと退化していくのを見つめている。後ろで鳴っているレトロな手拍子や叫び声と相反して、メロディーは遅れてやってくるが、それも喪失は実は何かを得ることと同じということを示しているのかもしれない。–Clover Hope

52. Camp Cope: “The Opener” (2017)

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ときの始まり以来、女達は男たちが音楽の中で行ってきた恩着せがましい行動に飽き飽きしていた。そしてこの “The Opner” で、メルボルンを拠点とするパンク・トリオ=Camp Copeはこれまで彼女たちが長年の間直面してきたミソジニスティックな不正義を想像のジェット用燃料として用い、自分たちのイメージのためだけにフェミニズムを利用する業界の男ども、このバンドは売れないと決めつけた予想屋、女性を肉体を持ったベッドのように扱う堕落した大麻常習者を粉砕してみせた。Georgia Maqの神経質なアルト、ドライヴするベースライン、そしてグランジど真ん中のパーカッションに乗せて、このバンドはただの一歩も退く姿勢を見せない徹底的な批判を提示している。曲の終わりに近づくと、Maqはこう叫ぶ。「お前らに耳を貸さずに私達がどこまでこれたのか見てみなよ!」彼女はデニム・ジャケットのパッチとして永遠に刻印されるであろう、Camp Copeの至って真剣なパンク・バンドとしての位置を確固たるものにしている。–Sophie Kemp

51. Kendrick Lamar: “Bitch, Don’t Kill My Vibe” (2012)

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2012年、まだ目新しい名声がKendrick Lamarの上に重くのしかかっていた。彼は自分の知らない人たちに取り囲まれながら、新しいコンプトンの声としての人生に順応していっていた。この “Bitch, Don't Kill My Vibe” で、彼は『good kid, m.A.A.d city』を通じて語られている成長譚から一度離れ、この急激な変化の中で自分の音楽の美徳を損なうことなく保つことを宣言した。「それを生かし続けようとしている/俺たちが愛する間隔を妥協することなく」と彼はラップする。しかし彼はこの曲の印象的な最初の一行で「俺は罪人だし、多分また罪を犯すだろう」ということも認めている。重たい内容にも関わらず、Sounwaveのプロデュースによるトラックはまるでカリフォルニアを後部座席に乗って流すかのようで、Kendrickのボーカルは鼻にかかったような歌から、スムースにしゃべるようなフロウ、そして矢継ぎ早のスプリントといった多様なスタイルを交互に繰り出していく。彼がこの曲で伝えているメッセージは、コンプトン――そしてその他の全員――は彼を信じてもいいのだということだった。そして彼はまだ我々を失望させてはいない。–Alphonse Pierre

Part 31: 50位〜46位