海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 31: 50位〜46位

Part 30: 55位〜51位

50. Arcade Fire: “Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)” (2010)

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“Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)” は2010年のアルバム『The Suburbs』、そしてその時点までにArcade Fireが成し遂げてきたものすべてのクライマックスを飾る曲である。この曲は非常に特定のアーキタイプについての曲である:芸術志向のはぐれもの、創造性を窒息させ、夢を押さえつけるような場所に閉じ込められてしまった夢想家についての。このキャラクターはバンドの過去とよく符合する。彼らがやっていたのは子供じみた陰謀についてのダークなアンセムだった――吸血鬼に噛まれた兄弟、車が一台も走っていない秘密の街など――が、この曲には新たに差し迫った感覚が付け加えられている。Régine Chassagneは器の大きい驚嘆とともに準郊外の不安を歌い、コンクリートジャングルを抜け出して牧歌的な風景へと逃避しようというありきたりなコンセプトに気高さを付け加えている。残りのメンバーが奏でる旬樹のようなダンス・ポップはいかなる苦さや悲観の音色も寄せ付けない。“Sprawl II” を聞いていると、この曲のヒロインは、それがどこであろうと彼女がもともといた灰色の地獄から抜け出して、自分らしくいられる場所を見つけたということが確かに感じられる。–Stephen Deusner

49. Gyptian: “Hold Yuh” (2010)

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誰もが皆夏についての曲を欲しがるが、夏を決定づける楽曲は決してその季節の真っ盛りのタイミングでやってこなくてもいいということに気がついているものは少ない。アメリカの春にみんなの頭を突いておいて、クラブやラジオで書けられる内にメロディーがその場の空間や、やがて季節全体、そしてその季節が何回も巡ってくるディケイド全体と切り離せなくなるような曲は、この “Hold Yuh” のような曲だったりする。Gyptianは “Hold Yuh” がクロスオーヴァー的な成功を収める前から “Serious Times” などの楽曲で5年以上の間ジャマイカダンスホール・チャートを賑わせていた。この曲のダンサンブルさに抵抗できないということ、そしてそのように体を一緒に動かすことを要求する、希薄ながらも中毒性のあるビートの上で親密さを欲求していくさまは殆ど不公平と言っていいくらいである。–Hanif Abdurraqib

48. Ariana Grande: “thank u, next” (2018)

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恋愛関係を公の場で進行させていくこととは有名人になることとセットである――それはその関係がうまく行っているときはいいのだが、それが苦しくなってくるととたんに苦しくなる体験である。Ariana Grandeはそのキャリアの中でそれを何セットか経験するはめになり、それは時にフェアじゃないと感じられるほどであった。彼女が元恋人のMac Millerの死を悼み、Pete Davidsonとの婚約の破棄を発表した2018年の秋、それはすぐさますべて記事の見出しを飾った。“thank u, next” はそれに対する彼女の反応であり、数多くの失恋から立ち直ってきたことによる磨き上げられた作品である。

楽曲自体はタイトルの持つ少し侮蔑的な感傷とは逆の方向に作用している:きらめくようなコーラスは過去、そして現在の自分に対して、ある種陳腐に、それでいて嬉しそうな感謝の意をを持って入ってくる。天使のような甘い歌声で歌うGrandeは大衆に、愛というものは簡素ではあるものの、我々は理由を持って人を愛することを選んでいるのだということを思い出させてくれる。“thank u, next” は彼女の置かれた状況を面白半分で覗いてくる人たちを挑発することで、少しながら「釣り」と捉えられてもおかしくなかった。元恋人を衆目に晒すという行為は悪趣味なものになっていたかもしれないが、小さ感謝の印に過ぎないものを提示する前に熱心な聴衆を引き寄せてしまうというのは、より魅力的である。–Hanif Abdurraqib

47. Tame Impala: “Let It Happen” (2015)

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 Kevin Parkerがブリッジで言っていることが何一つ理解できないのであれば、あなたは孤独ではないということだ。このボーカルは全くの出鱈目で、彼のパフォーマンスと、80年代のアイコンやフランスのロボットなどによる時の試練に耐えてきたヴォーコーダーによって感情的な重みを与えられた代理語にすぎない。でも彼が剥き出しの音節を歌っているということは重要ではない、なぜならその音色の一つ一つに沈痛な需要の感覚を感じとることができるからだ。それがこのほぼ8分に及ぶ、2015年の『Currents』の1曲目にしてTame Impalaの新たな時代の幕開けを告げたこの楽曲の中で、最も慈しみにあふれた部分である。懐古主義だとかJohn Lennonの崇拝者だとか、些末な批判はもうやめにしよう。このスペース・ディスコの重たい一撃で、Parkerはそれまで決めつけられていた彼の能力から解き放たれ自由になった。オクターブを移動するだけのシンプルなリフがまず耳に残るが、パンチの効いたドラムやよく練られたシンセのアレンジが、Tame Impalaが真のサイケ・ロック・オリジナルであることを高らかに宣言するための舞台を用意している。–Noah Yoo

46. The Knife: “Full of Fire” (2013)

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The Knifeが、世紀の変わり目にあのJosé Gonzálezの曲のきっかけとなった陽気なエレクトロ・ポップ路線をやめずに、それによってElectric Daisy Carnivalのポスターに3番目に大きなフォントで載って、Marshmello1度や2度コラボレーションするというもう一つの「あり得たかもしれない」現実が存在する。しかし我々がいる現実では、KarinOlof Dreijer2006年のクラシック『Silent Shout』でダークさを増し、その7年後には急進的な理論を吸収して堂々と帰還し、その名前に似つかわしい存在ーー何か冷酷で、尖っていて、必要であれば危険にもなれるようなーーへと完全なる変身を遂げた。2013年の『Shaking the Habitual』からのファースト・シングルである “Full of Fire” はノコギリの歯のようなシンセとシューというようなボーカル、そしてしゃがれ声のドラムパターンをつなぎ合わせた悪意に満ちたパッチワークであり、狂気による精神崩壊の淵で絶え間なく揺れ動くような1曲だ。目覚めた後、家父長制にレンガを投げつけてやる準備ができる前に、すべてをダンスフロアに置いていくよう仕向けているかのようだ。–Jeremy Gordon

Part 32: 45位〜41位