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<Bandcamp Album of the Day>Ana Roxanne, “Because of a Flower”

アンビエント・ミュージックの銀河の中でも、Ana Roxanneの作品はひときわ明るく輝いている。このシンガーの批評的に成功を収めたデビューEP『~~~』は彼女の中性的なアイデンティティを親密さをもって探索し、そのごWeyes Bloodのツアーのサポートを務めた一方てNTSでの月1のラジオ番組ではこのジャンルの偉大な先人たちに敬意を表した。そして彼女の最新作『Because of a Flower』では、このLAを拠点とするフィリピン系アメリカ人アーティストは合唱曲を多用し、超世俗的なムードを醸し出している。

Roxanneは『Because of a Flower』の中で個人的に重要な歴史的・文化的な瞬間を表現していて、作曲家=W.A. Mathieuによる文章の一節を引用したスポークン・ワードによる序曲でこの作品を始めている。「ハーモニーの精神は、それが濃縮されていく過程ですべての事物を作り出す」。ぐるぐると繰り返されるナーセリー・ライムのように、Roxanneの声はワープし、増殖していく。ハイライトであるシングル曲 “Camille” では、Roxanneの亡霊のようなハミングが、アナログ・ドラム・マシーンの表紙に合わせて正確に切り取られたフランスのニューウェーヴ映画から引用された快活な会話に対置される。最後の曲 “Take the Turn, Leave the Rose” でRoxanneはなくなってしまったカストラート歌手=Alessandro Meroschiによる “Ave Maria” のカヴァーのピアノをサンプル、その速度を下げている。

これらすべての人間性の肯定が『Because of a Flower』の天界のようなサウンドスケープの大空の中で星となり、それらの雄大さを親密に、直に結びつけている。これが、Ana Roxanneが如何に作品のディテールを優雅に用いているかということの証左である。“Venus” の水のさざなみ立つ音や、“---” のモゴモゴとしたシンセのライン、そして “Suite pour l'Invisible” での層となったハミングに至るまで、Roxanneの作品はその最も小さい構成要素を、それぞれの特質を全く失うことなく、宇宙的なスケールにまで増幅させてしまうのである。

By Alex Westfall · November 12, 2020

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