<Bandcamp Album of the Day>Heather Trost, “Petrichor”
Heather Trostはこの想像力を掻き立てるアルバム『Petrichor』において、サイケデリック・ポップに遊び心あふれる実験的な装飾を織り合わせた奇妙なパッチワークを編んでいて、自然界の美しさへの畏敬の念に満ちた彼女の愛らしい歌は、愛と喪失のさまざまな陰影を代弁してくれている。
Trostと彼女の夫=Jeremy Barnes(Neutral Milk Hotel)がニュー・メキシコのアルバカーキにあるホーム・スタジオで録音した『Petrichor』は、心地よい手織りのような手触りを持ち、これらの楽曲を万華鏡のような長尺のジャム局に屈折させてしまっている楽器、テープ・ループ、エフェクトの過剰な使用にも関わらず地に足のついた感覚を保っている。The Hawk and Hacksaw名義で、めまいのするような奇妙な東欧風のフォークも作っているこの二人は、『Petrichor』ではより伝統的なロックの表象に準拠していて、それはTrostが空間をたっぷり使って幅広い音空間を横断するのを可能にしているようなアーシーなクオリティに寄与している。
西部風のソフト・サイケ “Love It Grows” では、Trostは砂漠で永遠に咲き誇っている花を通じて愛の回復力についての空想的な賛歌を捧げている(そしてヴァースの半分をフランス語で歌っている)。失恋を歌ったバラード “I'll Think Of You“ そっけないピアノとTrostの甘美なソプラノ・ボーカルで始まり、やがてそこに生い茂るようなストリングスが染み渡っていき、“petrichor” という言葉――雨上がりに地面から香ってくる匂いを指す――を用いて失恋から立ち直れない状態をほろ苦く例えている。『Petrichor』の最も刺激的な瞬間は、TrostがHarry Nilssonの “Jump Into the Fire” をヒプノティックでドローン風のジャムに作り変え、それがいつか再び行われるのであれば、砂漠の音楽フェスでは砂の上を螺旋状に舞い上がって素晴らしく聞こえるであろう豊富な残響を響かせていくところだ。どの曲も他のすべての曲と違った音を持っているが、Trostの芸術的なヴィジョンと細やかなアプローチは『Petrichor』の無限に広がっていくムードを一つに縫い合わせるほどに強力で、それは彼女の個人的な宇宙の中を心地よく旅していくかのような体験である。