海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Luke Titus, “Plasma”

Luke Titusは十代の頃からシカゴのヒップホップ、アヴァンギャルド・ジャズのシーンの神童であり、この世のものとは思えないほどのドラムのスキル、そしてNonamePhoelixSen MorimotoRavyn Lenaeといったアーティストとの立派な共演によって知られていた。シンガー・ソングライター、マルチ奏者、そしてプロデューサーとして、Titusは本来全く異なるように見える音楽的世界同士を衝突させることに長けていた――シンコペートしたジャズ・ドラミングからグリッチドラムンベースR&B的な甘い歌声、そしてうっとりするようなシンセ・ミュージックに至るまで、この24歳の天才にとって上限となるものは存在しない。彼のソロ・デビュー作『Plasma』は豪快で、とち狂ったようなドラム、マス・ロック風のギターとベース、R&B風のピアノとリズム、Titusはその殆どすべての楽器を演奏している。彼はそれぞれの楽器の技術に精通していることを見せつけるだけではなく、この作品に吹き込まれたソウルをも誇示している。幕が下りると、愛、人間関係、そして人生の紆余曲折について柔らかなファルセットで歌う遊び心豊かなシンガーの顔が現れる。

Titusの音楽とそのプロダクションは名状しがたいニュアンスと隠し要素が満載で、『Plasma』は聴くたびにその新しい一面を覗かせる。始まりを告げるのはSen Morimotoとのコラボレーション “Air” である。ローファイ・ヒップホップ風のピアノと大胆なドラム、そしてこの曲をローラーコースターの急激に下降するスロープのようにしてしまうサックスのサンプルが一体化している。『Plasma』の前半の残りはそれに従い、高速でスタッカートのきいたリズムにリッチでシロップのようなシンセと彼のお得意であるファルセット・ボイスがのる。Ravyn Lenaeとのコラボ “Today” はこれらのこわばった音響的なコントラストの中でも際立って激しい習作である。

“Retrograde” や “Mysticals” と言った楽曲で始まるアルバムの後半はまた違ったムードを醸し出し、Titusはフル・オーケストラによるアレンジや舞い上がるようなコーラス、そして気難しいながらもメランコリックなメロディを用いて磨き上げられたポップ・ソングを作り上げ、我々に息をするスペースと感じ入るための時間を与えてくれる。Titusの音楽はジャンルレスであるという表現は、『Plasma』が誇示するサンプリングやインストゥルメンテーションの複雑さを考えれば失礼に当たるかもしれない。その代わり、Titusが作品の冒頭で告げているように、「プラズマは特定の形も、一貫した体積も持たないのである」ということをしっかりと肝に銘じておこう。

By Amaya Garcia · November 23, 2020

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