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<Bandcamp Album of the Day>Contento, “Lo Bueno Está Aquí”

ポップ・カルチャー界の巨人に独自のスピンを加えることは時にとてつもなく恐ろしいことだが、コロンビアのサルサパンク・デュオ=Contentoのプロデューサー=Paulo OlarteとSebastián Hoyosは堂々とそのチャレンジを引き受けているようだ。二人の愉快で、大胆で、かつ常に形を変えていくようなデビュー作『Lo Bueno Está Aquí』で、彼らはサルサがいかに雑種の音楽であるかというのを克明に記録している。何世紀にも渡る移住と文化的対話を称える一方、彼らの音楽的なDNAを形成している現代的な技術も大切にしている。

丁寧に織られたアルバムの1曲目 “Dale Melón” はコンガとギロからはじまり、ベース、ピアノ、アルト・サックス、そしてチキチキとなるチャフチャのパーカッションを擁するトロピカル・オーケストラへと着実に盛り上がっていき、至福のトーンをセットする。しかし、この曲の気取らないローファイなボーカルは、メデシンのブロック・パーティーの幸福感を追い求めながらも、大胆な実験を恐れないというこの作品の性質を暗にほのめかすものでもある。コロンビア風に料理されたLed Zeppelinの “Black Dog” である “Pelo Negro“ では聴き手の足元を救おうと試み、“Loco Por Tu Amor” ではContentoはダークなシンセとともに国外から取り入れた装飾を大胆に取り入れ、染み渡るようなベース・ラインととんがったドラム・パッドがエレクトロクラッシュと戯れる。これらの要素はサルサの規律の中では異端ではあるが、Acid CocoSanoなどのOlarteとHoyosによる多くのフュージョン・プロジェクトでは見られてきたものである。Sanoは特に、ベルリンにあるラテン・ハウス・レーベルのCómemeから出された名作である。

音楽においてもその制作段階においても、交差点というのが『Lo Bueno Está Aquí』における主要なテーマである。ジュネーヴに拠点を置くOlarteとバルセロナにいるHoyoは2016年から2019年にかけて何度か手を組み、彼らのラテン・アメリカンなサウンドと無数の影響源をかけ合わせたサウンドを磨き上げてきた。サルサは二人にとっての理論的なキャンヴァスであり、カリブ海周辺の国々、特にコロンビアで広く楽しまれたり再利用されたりしてきた。そのうえアフリカやポスト・コロニアル・ディアスポラに遡ることができる多くのリズムのパレットが存在する。“Las Gotas” でニューヨークのブーガルーを、“De Todas Maneras” ではSantanaの “Oye Como Va” (これ自体がTito Puenteによるクラシックの翻案である) のサイケデリックなオルガンのメロディをオマージュすることで、Contentoはサルサのこんがらがった、世俗的な歴史を受け止めている。“Paso Palante” ではStaff Banda BililiFela Kutiなどのアフリカの大家にも目配せをしていることも、この二人の音楽的多様性を完ぺきにとらえているとともに、二人が「ホーム」という概念をかりそめのもので決してひとつに固まるものではないと考えているということも示している。

By Richard Villegas · November 10, 2020

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