海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Hachiku, “I’ll Probably Be Asleep”

オーストラリアのバンド=Hachikuは2017年にセルフ・タイトルEPでデビューした。きらめくようなインディー・ロックの雰囲気と内省的な歌詞に、バンドのサウンドもマッチしていた。そしてリリースされた1枚目のフル・アルバムで、フロントウーマンのAnika Ostendorf――ドイツで育ち、メルボルンへ移住してから音楽をフルタイムで仕事にする決意をした元生物学専攻の学生――はより孤独なアプローチを取ることを決断した。『I'll Probably Be Asleep』で、彼女のバンドメンバーはアルバムの1曲めに収録されたタイトル曲にしか登場しない。その後はOstendorfが作曲・プロデュース・録音を彼女一人で担うことにしたのだ。

タイトル曲は、それがなくてはきらめくキーボードと親密なボーカルに満ち溢れた、瑞々しいドリーム・ポップで満載になっていたであろうアルバムに、楽器陣による貴重な不穏さを付け加えている。パリッとしたギターとメトロノームのようなビートが瞑想のような “Briding Visa B” に力強さを与え、“You'll Probably Think This Song Is About You” は柔らかなシンセ・ポップの子守唄である。

落ち着き払った音の見かけの下では、『I'll Probably Be Asleep』は複雑な、魂の探求についての歌詞を聴かせてくれる。“Dreams of Galapagos” はOstendorfの正確な節回しとバッキング・ハーモニーの豊かなタペストリーによってBjörkのような奇抜さを放っているが、その中で歌われているのは個人的な感情のもつれや二律背反と格闘する姿(「もう諦めてしまいたい/あなたの冷淡さが私を打ち負かす」)、そして自己破壊(「私はあなたの考えを憎み、その品位を落としてやりたい/次にあなたが私を信じるとき、私が本気かどうか確認して」)である。アルバムの外面は静謐ながらも感情的には乱気流のように激しいというこのコントラストが楽曲に信じられないほどの深さを与え、この作品は静かに勝利をおさめるのだ。

By Annie Zaleski · November 20, 2020

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