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<Bandcamp Album of the Day>E-Saggila, “Corporate Cross”

Anima Bulldozer』の野性味あふれるビートによって高いハードルを設定したRita Mikhael(またの名をE-Saggila)は、Hospital Productionsからの初のLPとなるこの作品でそれを見事にクリアすることでこの2020年を終えようとしている。シネマのような射程を持つこの『Corporate Cross』は、E-Saggilaのライブ・セットのもつコントロールされた混沌を呼び出し、表面のすぐ下で光っているコントラストを増幅させている。

MikhaelがRMとして発表した初期のソロ作、例えば2015年の『Opal Encouter』というテープはローファイな作品だった――アンビエントなノイズの節くれだったブレンドが奇妙に美しい闇討ちのようなシークエンスによって遮断される。比較的落ち着いた ”9 Digest” や毒混じりの ”Mantis Print” のような今回の新曲では、このイラク出身、トロントを拠点とするプロデューサーは明るく軽妙なメロディに先頭を歩ませ、その脇をラフなフィールド・レコーディングや発作のように気まぐれな機械のノイズが固めている。彼女は必要なときには自身の音楽にムチを打つが(例えば:テクノの極みである ”Mouth In Reach”)、それはサウンド・デザイン風の『ISAM』期のAmonm Tobinのようである。

その過程で、『Corporate Cross』は2つの待った異なる世界を織り合わせていく:すすにまみれたインダストリアルな風景と、自然の風景の両方をだ。それは完全に理にかなっている。アルバム・ノートにはこう書かれている。「これらの楽曲の多くはMikhaelがハイキング中、森の中で脳内で組み立てたものである」。『Ransom Note』の特集によると、そのうちの一つ(”Slowland”)などはアマガエルとの偶然の遭遇によってひらめいたものであるという。その意味で、『Corporate Cross』は我々の周りで呼吸し行きている世界、そして我々の生活と切り離せない存在であるテクノロジーと共生するための手段であるといえる。

By Andrew Parks · December 03, 2020

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