海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Emily A. Sprague, “Hill, Flower, Fog”

蜘蛛の糸のようなフォーク・サウンドを聴かせてくれた2019年の『Emily Alone』以来となるEmily A. Spragueによる新曲集『Hill, Flower, Fog』は、アンビエント・アルバムというよりはガーデンをそのままサウンドに写し取ったような作品である。3月に録音されたこのアルバムは、春の到来と植物の発芽を想起させるような生い茂るような手触りに満ちている:金管楽器のような甲高い音と土でできたようなドシンという音が、ゆったりと展開していくエレクトロニクスの組曲の中に織り込まれている。しかしこれらの静謐な印象は背景の一部に過ぎない。COVID-19が起こった時、Spragueは自分が「悲しみと恐怖」を感じていることに気が付き、以前のインストゥルメンタル作品で使われていたようなドローンではなく、モジュラー・シンセサイザーを使って「音を作っていく上での柔らかい土台」を探し求めたのだという。

 同志であり、生物を模倣した音楽に関心があるシンセシスト=Kaitlyn Aurelia Smithがそうであるように、Spragueは電子楽器を使って自然の力――正確で、繊細な世界構築のアプローチとしての――を想起させる。"Moon View” は夜の空の静けさを、きらめく星のように入ったり出たりを繰り返す光り輝く音色によって完ぺきにとらえている。”Horizon” はより大きな運動を示唆している――その重なり合った音色と軽快なパーカッションは時に屈折した音によって暗い色となり、和ならざるものの影をほのめかす。“Woven” ではアーシーで引き伸ばされたベースが軽やかなシンセへと変形し二重の螺旋のように上へ弧を描いていき、タイトルも楽曲自体もSpragueの思い描く風景の核をなす共生というものを指し示しているようだ。Floristでの彼女の作品の中では、Spragueはその歌詞の中に自然を織り込んでいる(「寝る前には木に話しかける/するとささやき返してくれるのが聞こえる」)。『Hill, Flower, Fog』では、それらと同じ要素が、Spragueのモジュラー・セットアップを通じて表現されている: その結果として鳴らされているパターンは、自然そのものがそうであるように、我々を催眠へと誘い、癒し、そして驚異を感じさせるものとなっている。

By Lewis Gordon · November 13, 2020

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