<Bandcamp Album of the Day>Dorcha, “Honey Badger”
UKはバーミンガムのグループ=Dorchaはその名前をスコットランド・ゲール語で「ダークな、うす暗い、不可解な」などの意味を持つ多義語からとっている。『Honey Badger』を通じて多くの場面で、Dorchaはこれら3つの定義と合致している。しかし作品にふりかけられた陰鬱とした、仄暗い要素にも関わらず、Dorchaの音楽を紐解くのに最大の手がかりとなるのはその「不可解な」部分である。荒々しいガレージ・ロックとバロック風のアート・ポップのバランスを器用に取りながら、このバンドは急な展開と驚くような楽器のチョイスによって、我々をあっと言わせるようなデビュー作を作り上げている。
例えば『Honey Badger』のタイトル曲を聴いてみよう:繊細なイントロからびっくりさせるようなレイヴへと跳ね上がり、60年代のファルフィッサ・オルガンが激しく打ち鳴らされ、ボンド映画風のストリングスとクラウトロックのモトリック・ビートがそれと並走し、渦巻のような轟音がたちまちに消えたと思ったらまた現れ、楽曲は不吉なアンビエンスを漂わせたかと思うと、サイケデリックなスロウ・ジャムへと変化していく。このサウンドはこうやって書き出してみると馬鹿げたように思えるが、それは作品上でもそうで、バンド全体が一つひとつの音に対して正確で、タガの外れた混沌から魅惑的な精巧さへと即座に移行することができる能力を持っているからこそである。
Dorchaがこの作品を録音したのはPortisheadの頭脳=Geoff Barrowのスタジオで、それはアルバムの生い茂るような音色やヴィンテージの機材といった眠っていた財宝のような雰囲気からも察知できるだろう。多くの若く、経験の浅いバンドにとっては、このような大量の「おもちゃ」へのアクセスを与えられることは不必要な散漫さへとつながることが多い。しかし『Honey Badger』は自然発生的で非線形である一方で、その西部へのこだわりはジャム・セッションの領域からも距離をとっている。遊び心と学位レベルのインストゥルメンテーションを混ぜ合わせることで、Dorchaは即興演奏に対する熱意と温室育ちレベルの正確さは交わらないものではないということを証明した。
By Patrick Lyons · November 16, 2020