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Weekly Music Review #62: Parquet Courts "Sympathy for Life"

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Parquet Courtsの「Sympathy for Life」をApple Musicで

Sympathy for Life - Album by Parquet Courts | Spotify


今年日本で劇場公開されたデヴィッド・バーンのライヴ映画『アメリカン・ユートピア』が、音楽映画史に残る大大傑作であったことに異論を唱えるものは少ないであろう。バーン本人を含めたパフォーマーたちはそれぞれの楽器を手に持ち(ドラム・セットは数人のパーカッショニストによって担われ)、しかもコード類はすべてワイヤレスという大胆な発想により、ステージ上の装飾は極限まで削ぎ落とされ、ステージ上にあるのは肉体と楽器のみというある種静謐とも言える空間が映画内で展開される。しかしこの映画は、バーン達が自転車でニューヨークの街中を走る映像で幕を閉じる。(おそらく)この場面を念頭に置いた、作家の森永博志がこの映画に寄せたコメントが素晴らしい。

舞台は客席に、劇場はストリートに、直結していた。一番大事なことを改めて教えられた。

そしてParquet Courtsの新作、“Sympathy for Life”の1曲目、’Walking at a Downtown Pace'を聴いたときも、このコメントのこと、そして『アメリカン・ユートピア』のことを思い出した。

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ニューヨークという場所を舞台にしていること以外は特に明確な共通点はないのだけれど、街を歩くことがクリティカルな思考法になるのだという一種のプロテストめいた感覚が両者を貫いていると言えようか。プロテストという観点で言えば、Parquet CourtsのYouTubeチャンネルにアップロードされている「Marching at a Downtown Pace」という動画では、The Lesbian & Gay Big Apple CorpsというLGBTQ+コミュニティのためのマーチング・バンドがプライド・パレードにおいてこの曲を演奏している模様が見れる。

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最近、人間の思考の速度は歩行の速度と合致しているのではないかと思ったことがあって、でもデヴィッド・バーンにも憧れているぼくは今日も、自転車で街を走る。「考えるバンド(thinking band)」と評されるParquet Courtsの音楽は、それと妙に相性がいい。food for thought、それは移動することと、音楽を聞くことだ。