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<Bandcamp Album of the Day>Nightshift, “Zöe”

Nightshiftの『Zöe』を聴けば、自分のレコードコレクションを整理したいという気持ちになるだろう。しかし30分後、あなたは引っ張り出したアルバムを全く整頓できないまま、レコードに囲まれて座っているだろう。これは過剰に自意識が強かったりよそよそしく知的ぶったりしないアヴァンギャルドなインディー作品ではなく、温かみがあって靴よげるような、まるで共同運営している植物園に次の季節は何を植えるのか決めるグループ会議に呼び出されたかのような、そんな気分にさせるような作品である。もちろんそれは、この作品の「優美な死骸(=複数の作家が、互いにほかの人たちが何をしているのか知らない状態で協力して一つの作品を作り上げる手法)」的方法論、Eメールをリレーするような形で作られた作品であるということもあるだろうが、スコットランドポスト・パンクはいつも英国のそれよりも活発に感じられるのだ。英国勢は打ち捨てられた肉のパック工場に残響するような素晴らしくクールな楽曲を作ることができるが、実際の人間の温かみを感じられるようなパンクを探しているのであれば、グラスゴーを当たってみるべきだ。

しかし、Nightshiftはその温かいだけではなく奇妙であるというサウンドの特徴によって、ほかのグラスゴー勢と一線を画している。様々な冷たく、突き放したようなミニマリズムをよく用いるこのジャンルにおいて、『Zöe』は人間味あるキーボードと魅惑的な木管楽器で満たされていて、そこに思慮深く考え抜かれた歌詞が重ねられていく。この組み合わせが彼らの楽曲に深さと予測不可能性を付け加えている。”Make Kin” は心ひくクラリネットの音色が予想外に登場し、”Infinity Winner” の不協和音の重なりは、このバンドの意図的なくつろいだアプローチによって鎮静効果を生み出している。注意深く組み立てられた ”Spray Paint the Bridge” と ”Fences” はThurston Mooreの『Psychic Hearts』のゆっくりとしたヴァージョンのように感じられる。ここでは不協和音へと向かう傾向が、彼らが生まれ持っているメロウネスの感覚によって和らげられている。

Nightshiftの才能は、控えめなポスト・パンクやノー・ウェイヴの使い古されたトリックや修辞を、まるで古い友人たちとの心地よい集まりのような雰囲気に作り替える点だが、『Zöe』を通して彼らは政策におけるストレスフルな状況――言い換えれば私たちがこの1年を過ごしてきたやり方――にもかかわらず黙想的なバランスを見事に釣り合わせている。

By Sim Jackson · February 23, 2021

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