海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Senyawa, “Alkisah”

Wukier Suryadi自作楽器Rully Shabaraの多彩な声が特徴のインドネシアの二人組Senyawaは、ジャワのフォーク音楽――古代のメロディ、秘術的なリズム、弓でかき鳴らされる弦楽器――と即興演奏、過激なヴォーカルのスタイル、ヘヴィな雰囲気を溶け合わせることによって世界中の注目を集めてきた。2014年の『Acaraki』と2015年の『Menjadi』ではいかなり伝統への束縛からも解き放たれたようなサウンドを披露していたが、2018年の『Sujud』はドローン~ドゥーム・メタルからの影響が強く感じられた。そして二人の新作『Alkisah』では、Senwayaはまるで天空に上り、人類の崩壊を空から眺めているような、そんな音を鳴らしている。

「終末がこの手の中に握られているときに、力に何の意味があるのだろうか?」とShabaraは1曲目の ”Kekuasaan” で歌う。そこから、バンドは強欲、憎悪、破壊についての終末論的な物語を、キャッチ―なフックと不吉なノイズと対比させながら描き出していく。”Alkisah I” のブザーのような単音のパルスがSenyawaをエレクトロニック・ミュージックのようなものに引き寄せると、それはすぐにインダストリアルな機械音の嵐で囲われてしまう。”Istana” は心地よい、チャントされるハーモニーで始まるが30秒もすると窒息するような、ディストーションのかけられたリフとShabaraの地獄のような咆哮が後から追いついてくる。その後、二人はミナンの古いことわざの蒐集を迷走的なポップ・ソングへと作り替え(”Kabau”)、その後に4分間の雑音と暴力的な反乱を表象するスポークン・ワードを聞かせる(”Fasih”)。そして ”Alkisah II” では、Shabaraはオペラ歌手のように歌い、Suryadiは幾百万もの恐ろしい昆虫の行進をノイズで表現している。このようなスタイルや温度の衝突によって暗闇は晴れ渡り、Senyawaの最大の強みが発揮される――それはしっかりとチューニングされた緊張感のもとでの、冒険への確固たるコミットメントである。

By Ben Salmon · February 19, 2021

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