Weekly Music Review #64: Dijon『Absolutely』
James Blake、Frank Ocean、Bon Iverといったテン年代の巨人たちは、R&B〜ソウルというサウンドをインティー・ロック界に持ち込み、内省の風潮を男性と結びつけ、やがてそれは多くのベッドルーム・アーティストたちを生み出した。人種・ジェンダー・演奏スキルといったものが全て無効化されたその混沌は、20年代に入ったいま、ある種の王道になりつつある。今回紹介するDijonのデビュー作『Absolutely』も、そういった文脈を正統に受け継いだベッドルーム・ポップ〜インディー・ソウル作品だが、クオリティの高さと才能の非凡さで群を抜く作品だと言える。
もともとやっていたデュオを解散し、2019年にソロ・アーティストとして『Sci Fi 1』というEPを発表。翌20年には続くEP『How Do You Feel About Getting Married?』を発表。さらにはCharli XCXやBROCKHAMPTONのプロデュース仕事もこなしている。徐々に注目を集める中、今回満を持してフル・アルバム『Absolutely』が届けられた。
本作でまず目を瞠るのはそのヴァラエティの豊かさだ。フォーキーでアコースティックなな「Big Mike's」「Scratching」で幕を開けたかと思えば、続く「Many Times」はアップビートなドラムと性急なボーカリゼーション、そしてギターの音色が全面に出てきていて一気にロック然としてくる。さらにはピアノのソロとDijonの絶叫で幕切れ。かと思いきや次の「Annie」はスウィートなソウル・バラード。そして1曲を挟んでの「The Dress」はいきなり80’sポップ・バラードといったムーディーな趣。更に後半にはJames Brownプロデュースのブレイクビーツの定番Lyn Collins「Think (About It)」を使ったメロウな「Talk Down」も。そして最後の「Credits!」はまるでブルース・スプリングスティーンのようなハートランド・ロック。あくまで基調は冒頭2曲のテイストながらも、これほどまでに幅広い楽曲を12曲32分の間に詰め込んでくるあたりも、今や王道。でも、そのクオリティがめちゃくちゃ高い。また、これだけの幅を一つのまとまった作品として聞かせる手腕も、相当のサウンド・プロダクション・スキルが無いとなせない業である。
これはYouTubeで公開されている「Many Times」のライブ映像だが、これが素晴らしい。アルバムだとかなり抑制された流麗な歌声だが、このライブだとかなりrawでエモーショナルだ。机の上に散らばるビールの空き缶やら空き瓶も、彼の泥臭いパフォーマンスを印象づけている。録音盤とはまた違った印象で、それでいてっめちゃくちゃ素晴らしい。一緒に演奏しているメンバーもおそらくアルバムに参加している人たちだろうか、かなりリラックスした雰囲気で、こんな空気の中でアルバムも作られたのだろうかと想像が膨らむ(Dark ThroneのTシャツを着ているのも最高だ)。
今年のインディー・ロック〜ポップの作品はこの作品より上か、下か、で語りたくなるような、2021年に鳴らされる音楽の一つ基準としたくなるような、そんな1枚だった。