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<Bandcamp Album of the Day>Vritra, “SONAR”

イングルウッドを拠点として活動するラッパー=Vritraは10年代のはじめ、不作法で、荒々しいほどに成功を収めたOdd Futureコレクティヴの創設メンバーとして知られていた。今では10年以上のソロ・キャリアを持つ彼の最新作『SONAR』では、その経験を向こう岸から回想するような、積み重なった札束と驚くほどの成功がときにニセモノの友人をひきつけてしまうということを歌っている。「あんたの友達はどこだ?/誰を愛してる?誰を信じてる?」アルバム中盤のブルージーなトラック ”FRENDZ” で彼は繰り返し問う。プロジェクト全体を通して、このような大きな疑問が、今年はじめにリリースした『FLOATERS』でもプロデューサーを務めたLeon Sylvers IVによるほろ苦くも甘いメロディと混ざり合っていく。「資本とコインの後ろを追い求めた/薄切りのテンダーロインのようにレアだった」せわしなく動くピアノとガポガポというベースの音が印象的な1曲目の ”FRETLESS” でVritraは落ち着いたクールネスを持って振り返る。地位自慢はすぐに注意深い感傷で打ち消される。例えばMobb Deepの90年代のサグ・ラップ・スタンダードである ”Shook Ones (Part II)” のフックを抜け目なく取り込んだ ”CLOSER TO GOD” では「難しい状況/金が絡むとみんな前のめりになる」とラップしている。

SONAR』では、成功を心ゆくまで楽しむことと、その後に差し迫った裏切りの兆候を察することを率直に行ったり来たりしているのを聞くことができる。しかし最後から2番目、2パートの楽曲 ”CREEP / TOLYWOLY” にたどり着く頃には、Vritraはそういった視線を内側に向けることだけで得られる平穏を発見している。「今日の自分を愛そう」彼は心のこもった声でそう請う。彼の声はとてつもないベース音と雨の古音の環境音に包まれている。「過ぎ去ったものに感謝する努力をしてみよう/そうすればそういった経験も好きになる日が来るかもしれないから」

By Phillip Mlynar · September 08, 2020

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