海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Billy Brooks, “Windows of the Mind”

トランペット奏者=Billy Brooksの名前は音楽史に深く刻み込まれてはいないかもしれないが、彼は1960年代終わりから1970年代はじめのジャズ・ファンクの進化に置いて中心的な役割を果たした。1950年代からセッション・ミュージシャンとして活動し、Four Tops、Tina Turner、Cal Tjader、なとど共演。そしてその中には、この1974年のBilly Brooksのアルバムを共同プロデュースし、彼の持つレーベルからリリースされることになったRay Charlesも含まれている。

今回WEWANTSOUNDSからリイシューされることになった『Windows Of the Mind』はBrooksによる唯一のアルバムで、レコード収集家の間ではカルト的な人気を誇る作品だ。このアルバムの評価が固まったのは発表から数十年が経ってから、A Tribe Called Questがヒップホップを永遠に変えてしまうことになる1990年のデビューアルバム『People’s Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』の ”Luck of Lucien” においてジャズ・ファンク曲 ”Fourty Days” をサンプルしたことによるものだった。ジャズ・ファンクのクラシックと言われることの多いこの作品だが、その射程はそれよりも遥かに広い。美しいスロウな ”C.P Time”や、ミッドテンポ・スウィングの ”Cooling It” ではビッグバンド・ジャズ風のサウンドも聞かせてくれる。さらに、足を踏み鳴らしたくなる1曲目 ”Rockin Julius” や舞い上がるような ”The Speech Maker” のような、Brooksの才能が輝きを見せているような楽曲は、昔の推理ドラマのサウンドトラックに使われていても違和感がないだろう。このリイシューによって、Billy Brooksがジャズ史の中で過小評価されてきたレジェンドであるという認識が定着する歩みの一助となれば幸いだ。

By Megan Iacobini de Fazio · September 11, 2020

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