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<Bandcamp Album of the Day>Georgia Anne Muldrow (as Jyoti), “Mama, You Can Bet!”

最新作で、Georgia Anne MuldrowはJyotiという名義――故・Alice Coltraneから授けられた名前だという――を用いて、アヴァンギャルド・ソウル〜ジャズをやっている。このアメリカで最も完成されたソウル・アーティストが、その実験的な趣向に走らなければどれほどのビッグなスターになり得たかと信じる気持ちはわからないではない。が、ピアノ・ストゥール・ラウンジ・ミュージック、エレクトロニカ、ジャズ・フュージョン、ヒップホップをコラージュした、ジャンル分け不能のこの『Mama, You Can Bet!』のようなアルバムをもたらしてくれるこの本能を和らげてしまうのは悲劇である。

このMuldrowの挑戦的な実験に耳を慣らす必要のある人もいるかも知れないが、ここに収録された楽曲はすべて注意深く耳を傾けるに値する要素を必ず持っている。柔らかく跳ねる “Zane, The Scribe” は柔らかいパーカションの打音を脈打つようなヴォブラフォンと混ぜ合わせている。“Beamonable Lady Geemix” は『トムとジェリー』で流れていそうなものをスクリューし、宇宙的なヒップホップに仕立て上げている。ハードエッジなファンク “Fabous Foo Geemix” に対しては美しいソウル・ゴスペル “Ancestral Duckets” が配置される。後者ではMuldrowが低音から高音まで雨のようにつるべうち、自身の声を用いて自然なテクスチャを付け加えている。しかし、このアルバムには魅力的な歌詞も登場する。Muldrowのディスコグラフィー全体を束ねるものが一つあるとしたら、それは革命のメッセージである。「この土地に適応できず/この力は/この力はその計画を終えることが出来ない」と彼女は “Orgone” のピアノの上で歌う。

Muldrowという惑星のエントリポイントを探している者にとっては、Madlibが舵をとった『Seeds』やポップに焦点を当てた『Overload』をおすすめする。しかし、『Mama, You Can Bet!』は単にこのシンガーが気が触れて作った怪作ではない。これは彼女のベストの一つであり、彼女の過小評価されているレガシーを固定するためのボルトである。

By Dean Van Nguyen · August 31, 2020

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