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<Bandcamp Album of the Day>Dukes of Chutney, “Hazel”

Dukes of Chutneyのデビュー作『Hazel』は、まるでLaurel Canyonを経由してBroadcastを呼び出そうとしているかのようだ。このグループは10年代のはじめにサーフィンをしているときに出会ったDustin LynnとJohn Paul Jones IVの二人に、ベルリンを故郷だというヴォーカリストのPetraという布陣である。『Hazel』は2013年のEP『Domino』に続く作品であり、このアルバムのサウンドはじっくりと、自由に流れていく。まるでこの二つのリリースの間の時間と同じように。

『Hazel』はこのグループそのものと同じように自由な精神によって作られた作品である。オルタナアンビエント的なサウンドスケープサイケデリックなリフが重なり、ドリーム・ポップやダブ、バレアリックやフォークなどが連なっていく。この作品は霊に取り憑かれているわけではないが――ダウナーな瞬間はどこにも見当たらない――、”Little War” はThe Beatlesの ”Hello, Goodgye” の、”Come In, Go Away” はLittle Richardによって有名になったポップ・スタンダード ”Keep a-Knocking” の魔法が感じられ、音楽の歴史に取り憑かれているような感覚を感じる。さらに、このアルバムの制作にはスーツケース・オルガン、アープのシンセサイザーメロディカ、トイ・シロフォンなど多様な楽器が使用されている。

Dukes oc Chutneyは気だるそうな雰囲気をまとっているが、怠惰なものはこの作品からは感じられない。『Hazel』は至福の感覚にどっぷりと浸る経験であり、ヒッピー音楽オタクの未来的な夢を乗せた傑作である。夏の終りには欠かせない作品で、現実世界の重圧に関係なく、いつまでも輝く太陽の光を約束してくれる。

By Claire Lobenfeld · August 26, 2020

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