Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 12: 145位〜141位
145. Charli XCX: “Gone” [ft. Christine and the Queens] (2019)
ほぼ10年もの間、朝5時までパーティーしているようなレイヴ好きのクラブっ子というブランディングをしてきたCharli XCXだが、そのイメージにもヒビが入った。この“Gone”は迷子になり、絶望へと引きずり込まれていく。80年代ファンク・ポップ風のビートに乗せて、彼女は「とても不安定な気持ち/この人たちのことは大嫌い」だと歌う。この「居場所がない」という感覚はメジャー・アーティストとしてヒットを連発することを求められながら、本当はそういったものを一捻りして脱構築する方を好むという彼女自身のジレンマのメタファーとしても捉えられる。一緒に暴れているのは同じくポップ界の異端児、Christine and the QueensのHéloïse Letissierである。彼女は偏執病に陥り、自分が「煙」なのか「太陽」なのかという実に不思議な問いを投げかける。その狂気はエスカレートしていき、グリッチのかかったヴォーカル・チョップ、金属的な効果音、そしてドラマチックなパワー・シンセのフィルとなる。これは精神の崩壊、そしてそれを経た成長のサウンドトラックなのである。–Michelle Kim
144. Spoon: “Inside Out” (2014)
Spoonの楽曲は概して、我々が聴くことのできる部分と、我々が聴くことのできない部分によって定義されている。皮をむかれ核だけが残り、このバンドは目に見える構造と多くの開かれた空間で音楽を作り上げることができている。これらのことが重要雨なのは、“Inside Out”はSpoonの楽曲の中で最も豪勢な楽曲であるからだ。ハープ・ソロの支えとなる厳重なリズム(これが彼らの特徴ではないが)とフロントマン・Britt Danielによる「自分が欲しい物がわかっていて、その他のものにとらわれなければ人生はとてもシンプルたりうる」といういらだちが表れた歌詞を中心に作られたこの曲は、Spoonが新しい時代に突入したというわけではないが、かといって他のSpoonの曲のようには全く聞こえない。“Inside Out”の偉大さは、その想定外の柔らかさだけではなく、賢くあることと同時に生意気でもいられるDanielの能力にこそあるのではないだろうか。知恵を得ることは年を取ることでもある。だが、それがここまで達成感にあふれて聞こえることはめったに無い。–Sam Hockley-Smith
143. Rick Ross: “B.M.F. (Blowin’ Money Fast)” [ft. Styles P] (2010)
全能の怪物が、恐怖におののく街を破壊し、ビルの頂上につかまり、胴体にあたる銃弾を跳ね返しながら飛んでいる飛行機を払い落とす。こんな古いモンスター映画はご存知だろうか。ある時点で、Rick Rossは彼の革の椅子で前かがみになってこう考えたに違いない。「このモンスターがいまラップをするとしたら、どんな感じなのだろう?」と。Rossはそのエネルギーを、プロデューサーLex Lugerとの身震いするようなコラボレーション、“B.M.F.”に注ぎ込んだ。4分間に渡り、彼はまるでとてつもなく強力でコカインをキメた巨人のように、彼と彼の利益の間にあるありとあらゆる障壁を破壊していく。彼を止めることはできないし、彼とまともに話をしようとしたって無駄である。我々にできるのは、彼を称えた銅像を建て、彼の怒りの無慈悲なほどの効率の良さに驚嘆することだけである。–Evan Rytlewski
142. Rihanna: “Needed Me” (2016)
“Needed Me”で提示されているのは、経験豊富で快楽主義なアウトローとしてのRihannaのはっきりとした具現化である。人々は彼女を必要とするが、彼女は誰も必要とはしない。それは至って普通のことと感じられるべきなのであるが、自分のルールのみによって統治され、男のようにふるまう女性を見るのは爽快である。その一方で“Needed Me”には優しく、物悲しげな知性が垣間見える。人間関係の中で強者として振る舞うことができ、誰も頼りにすることができない人物についての歌である。何故それが悩ましいのだろう?ラジオ・ヒット請負人であるDJ Mustard、Frank Dukes、Starrahによって作られたこの楽曲はセクシーで獰猛であり、それはRihanna特有のZ世代・X世代両方の好みや感情を宿すことができる能力をひけらかす方法なのである。その残響は巨大であるが静かである。この曲はトップ5にこそはいらなかったものの、彼女の楽曲の中で最も長くチャート・インした楽曲となった。–Naomi Zeichner
141. Gil Scott-Heron: “New York Is Killing Me” (2010)
Gil Scott-Heronと、彼がホームだと呼びその人生の大半を過ごした街・ニューヨークの間には愛憎入り交じる関係性があった。70年代中盤、フォード大統領がこの街に野垂れ死ぬように告げてまもなく、Scott-Heronは“New York City”というシンプルなタイトルのラヴ・レターを綴り、ここは美しく、良いエネルギーがある場所であると称揚した。それから35年が経ち、Jay-ZとAlicia Keysによるローカル・アンセム“Empire State of Mind”がまだ人気を博している頃、Scott-Heronはこの街をそれとは違う、更にダークな方法で描き出した。
“New York Is Killing Me”はこの街を、約束とチャンスで溢れかえり、Scott-Heronが「致命的だ」と示唆する疎外感と孤独によって定義される街として描写する。XL Recordingsのオーナー・Richard Russellによるプロダクションは、まるで排気ガスを一日中吸っているかのように息苦しい。この音楽は簡素であるがせわしなく、辛辣でありながら優しく、縄跳びのようなリズムやカタカタという音、そして地下鉄の耳障りなガタガタという音のように鼓動するベースラインを伴っている。「800万人もの人がいて、僕には一人の友だちもいないんだ」と歌う彼の声は不安と後悔でずっしりと重い。この曲が過去形で歌われることは2010年のリリース当時も辛いものがあったが、彼の1年後の死によってその辛さが増してしまった。–Stephen Deusner