海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 10: 110位〜101位

Part 9: 120位〜111位

110. Waka Flocka Flame: Flockaveli (2010)

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銃声を模した合いの手や過激にエスカレートしていくシンセを聴くと、このWaka Flocka Flameのデビュー作は未だに爆発的なサウンドに思える。後知恵で考えれば、このアルバムがいかにオーセンティシティやストラグルに対する検証記事心配を純粋に楽しい行為にしてしまったのかと考えるのは容易い。WakaとプロデューサーのLex LugerのスチームローラーのようなサウンドからChief KeefやYoung Chopの壮絶なミックステープ『Back From the Dead』に繋がる線を引くことができるのと同じように、『Flockaveli』をTravis Scottのライヴでの仕草、ティーンたちがモッシュする光景に結びつけることもできる。Wakaが次第にEDM路線を取り、大学生がビールをショットガンしているような社交クラブでショウを行うようになったとはいえ、彼のデビュー作は強烈なリアリズムと無鉄砲さの間のちょうどいいバランスを見つけ出したと言える。–Ross Scarano

109. Julia Holter: Aviary (2018)

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ストリングス、ホーン、クワイア、ハープ、パーカッション、シンセサイザー、リード楽器、バグパイプなどによって吹き出される波のようなプロポーションを伴い、Julia Holter『Aviary』は恍惚とした過剰を大いに楽しんでいる。曲がりくねり、形は変わり、そしてしばしば反響し合いながら、そのメロディーたちは純粋な大気の雲へと拡散していき、ストリーミング時代において多くのポップ・ミュージックが志向する上辺丈の簡潔さとは反対のものを提示する。これはプレイリストの材料では、ない。

『Aviary』のなかで参照されているものはHolterのアルバム群の中でも最も博学でオブスキュアなものである。ダンテ、プーシキンオック語のフォーク・ソング、そして記憶術と中世についての学術的な大著。Vangelisによる『ブレードランナー』のスコアもどこかに隠されている。「困窮の時代」に意味を見出そうとするHolterが間違えようのないほど現代的な作品に翻案されていて、彼女の「意識の流れ」的歌詞は毎夜のニュースを希望もなく模倣する(「ミサイルの話題が頻繁に/不幸な領域から聞こえてくる言葉をむしゃむしゃと食べ/忍び寄る死に幸運がゆっくりとキャンディを投げる」)。その感情の氾濫は、一日中ソーシャル・メディアをスクロールする行為を伴った、戦争に敏感になった情報過多の感覚に似ているのかもしれないが、このカタルシスの瞬間一つ一つは実に深く切り刻まれている。–Philip Sherburne

108. Kaytranada: 99.9% (2016)

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モントリオールのプロデューサー・Kaytranadaのデビューアルバムは、各パーツの合計値以上のものとしてのダンス・ミュージックの輝かしい例である。2016年というEDM時代への返答であるとも言える、ソウル、ヒップホップ、ハウス、ジャズ、そしてディスコを混ぜ合わせたこのアルバムにはVic Mensa、Syd、Craig David、Anderson .Paakなどのフィーチャリング・ヴォーカルが参加している。グリッチーなビートとセクシーで複雑なインストゥルメンテーションを織り合わせる離れ業のおかげで、この作品からは温かさだけが感じられる: そのアスレチック主義は必ずしも重要じゃないわけではないが、それ自体のスペクタクルを作るためのものでもない。その上、このアルバムはこのディケイドにおいてポップ・ミュージックというものがどのように広く考えられるようになったのかということのベンチマークである:ジャンルを十分に混ぜ合わせればそれらは互いを打ち消し合い、そこに残るのは丁寧な分類では捉えきれない、ただそのものだけである。–Steve Kandell

107. Dirty Projectors: Swing Lo Magellan (2012)

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Dirty Projectorsはかつて謎めいたバンドだった。フロントマンのDavid Longstrethがブルックリンの風通しの悪いスタジオで18時間も練習しただとか、Black Flagの曲のコードをフィボナッチ数列だかなんだかに一致するように作り変えたとかいう話を聞いたことがあるかもしれない。そして君はこう思ったはずだ:これは、ラジオに合わせて鼻歌を歌ってしまう自分なんかがバカに感じられてしまうほどなんだか頭がいい人向けの音楽なんだ、と。しかし『Swing Lo Magellan』において彼らの形式的な実験性は徐々に感情的な寛大さへと主役を明け渡しつつあり、それはどんな小難しい音楽理論を使っても覆い隠すことはできなかった。

このアルバムの持つ輝きは、大好きな人達と集まってキャンプファイアーをしながらお話を聞かせ合う際の暖かさや親しさに似ている。それは軽率なほどに赤裸々で、“Impregnable Question”は正直さについて実験しているような元・ヒップスターの、初の結婚についての楽曲である。それは“Unto Caesar”でAmber CoffmanとHaley DekleがLongstrethの難解な歌詞をからかっているのと同様に(「えーっと、全く意味がわからない…」と)、ファニーな瞬間である。『Swing Lo Magellan』はこのラインナップでのDirty Projectorsとしては最後の作品となってしまい、聴くとほろ苦い気持ちになる。しかし彼らが一緒にいたときは最後までずっとリアルであったのだと、我々は知っている。–Jeremy Gordon

106. Moses Sumney: Aromanticism (2017)

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Moses Sumneyのような声に出会えるのは、おそらく10年に一度だけだろう。綿のように柔らかでありながら渓谷のような幅広さを持ち、窓にできた霜のように新鮮で流麗である。似たような冷たさ―愛の不在―がこの彼のミニマルで美しいデビュー・アルバム『Aromanticism』に吹き込まれている。それは失われた愛への嘆きではなく、愛は訪れないのではないかという推測である。彼のブルースの糧となっているのは感情の重さであるが、それは逆に彼はそのどれも感じたいとは望んでいないのではないかと彼は思い悩む。もしかしたら彼は電話をかけ直してくるかもしれない:セックスの代わりに、車の中ですこしいちゃつくのはどうだろう?多くの曲において、彼のファルセットは貧相なエレクトリック・ギターに掛かっている―圧倒的な“Lonely World”を例外として。この曲を中心にしてこのアルバム全体が公転している。これらの楽曲には孤独が取り憑いているが、それは同時に一種の安堵でもある。「見つめることと抱きしめられないということ」と彼は歌うが、それは祝福でもあり呪いでもある。–Jeremy D. Larson

105. Disclosure: Settle (2013)

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HowardとGuyのLawrence兄弟のDisclosureとしてのデビュー・アルバムはハウスや2ステップ・ガレージ、そしてその他のダンス・ミュージックの種(しゅ)をド派手なEDM楽団の時代に合わせてオーバーホールするような作品だった。ティーンエイジャーだった頃にイングランド南東部でDJを始めたこの兄弟はこの『Settle』でもおなじみの公式に頼っているのかもしれないが、それでもその公式をこのディケイドで最もあらがいが炊く魅力的なダンス作品の一つに仕立て上げることに成功している。このデュオによって注意深くキュレートされ組み合わされたジャンルたちは幅広いゲスト・アーティストたちによってサポートされていて、そのゲストの多くの多くはすぐにそれぞれのサクセス・ストーリーを歩みだすことになった。彼らは一手に爆発的な“Latch”でSam Smithのキャリアを立ち上げ、ノッティンガムポップ・グループLondon Grammarは“Help Me Lose My Mind”でのジリジリと焦げるような出番のあと人気が急上昇した。Disclosureが本作と同じような高みに達することはなかったが、この『Settle』は2010年代初期のクラブ・ミュージックの頂点における、ヴィヴィドで恍惚としたタイム・カプセルであり続けている。–Eric Torres

104. Waxahatchee: Cerulean Salt (2013)

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AllisonとKatieのCrutchfield姉妹によるティーンエイジ・バンド、P.S. Eliotは彼女たちが出てきたアラバマDIYシーンを超えて広く愛された。2011年にこの双子姉妹デュオが解散すると、Allisonはドラムの椅子から飛び出してノイジーなギター・ポップ・バンド、Swearin'を率いるようになった。その一方Katieはアコースティックギターを手に実家にこもり、Waxahatcheeとしての荒涼としていて焼けるようなデビュー作『American Weekend』を録音した。それに続く作品となったこの『Cerulean Salt』では加速された音楽的経験に焦点が当てられ、新たな色彩が加えられている。Katieは依然として宅録をしているが、ここでの「宅」とはAllisonやSwearin'のバンドメンバーと一緒に住んでいるフィラデルフィアの家のことであり、他の住人たちの作品の随所で協力している。ドタンバタンしたドラムとぶっ放されたギターに後ろを任せながら、Katieが描く、悲痛なまでに鮮やかな孤独と自信喪失の描写は勝利的なまでに響き、特にサーフ・ロック風の“Coast to Coast”では彼女は「気分が落ち込むことも抱きしめるようにしたい」と物憂げに、朧気に主張する。この後、Waxahatcheeはインディー界の巨塔・Mergeへと移籍し更に2作の素晴らしいアルバムをリリースした。そして未だに多くの信奉者たちがそれぞれの取り散らかした真実を歌うインスパイア源で有り続けている。–Marc Hogan

103. Helado Negro: This Is How You Smile (2019)

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 Roberto Carlos Langeは10年以上かけてこの『This Is How You Smile』にたどり着いた。ヴォコーダーをいじくりまわしたり新しい共作者を応募したりと、LangeはHelardo Negroという看板のもとで忍耐強く、そしてコミュニティに根差したやり方で実験を続けてきた:彼にとって最も大事なのは常に人々だった。テープ・ヒスと柔らかに光るシンセによって洗練されたサウンドと、コミュニティ、強制移住、自分が持って生まれた肌の色を愛することについての、二言語による熟考が薄明かりを灯すこの『This Is How You Smile』で、彼の創作は頂に達した。『This Is How You Smile』の中においてLangeの希望の源は皆のための安らぎであるが、真心のこもった歌詞(「歴史が証明している/ブラウンは成功しないって/ブラウンはただ光り輝くのさ」)の中でわざわざ取り上げられている黒人と褐色人種にとって、それは祝福のように感じられる。 –Eric Torres

102. Jeremih: Late Nights: The Album (2015)

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無関心からむき出しの自己破壊まで、そのアティテュードの振れ幅にもかからわず、Jeremihは静かにこのディケイドの間メインストリームでの成功を収めている。メジャー・レーベルというシステムの存在自体の中にある勝利を象徴した作品、『Late Nights』を例にとってみよう。“Planez”や“Oui”といったシングルはSingles “Planez” and “Oui”純粋なソングライティングの強さによってR&Bラジオの主力となった。Jeremihはミュージック・ヴィデオを撮ったりテレビに出演したりといった、あらゆるその他のプロモーション戦略に従事することを断った。アルバムのツアーを行う中で、彼はすぐさま、より少ないヒットしか持っていないのにもかかわらずヘッドライナーを務めていた主役・PARTYNEXTDOORと衝突した。やがて彼はヒューストンのショウにおいてステージに影武者を送り出したとして非難された。

2010年代において支配的な音楽的テーマは、DrakeやPost Maloneといったアーティストに代表されるラップとR&Bの融合であったが、Jeremihはまた違う角度からそのポジションにたどり着いた。彼のR&Bは確かにラップのようにフロウしているのだが、そのメロディの弾みはシンガーだけが出すことができるものだ。でも例えジャンルのタグがうまくはまらないとしても、『Late Nights』の音楽はこの10年で最も優れたR&Bの一つであると評される。“Pass Dat”や“Drank”といったハイライトはLil WayneやYoung Thugによって敷設された道筋を辿ってきたものを祝福する実験的な楽曲であるし、“Actin' Up”や“Remember Me”といったバラードには、この10年で最良のヒップホップを思わせるような、マリファナをふかした時のようなスペーシーさがある。このアルバムで最もためになるのは“Paradise”で、柔らかなアコースティック・ギターに続いて、二日酔いのJeremihの横に女性が眠っている…という物語であるが、最後には彼がジャグジーで一人、素晴らしい人生に乾杯しているところで結末を迎える。彼が孤独を楽しんでいるということがわかるだろう。–Jordan Sargent

101. Chromatics: Kill for Love (2012)

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うす暗く、スタジオに引きこもりがちのJohnny Jewelが2006年にItalians Do It Betterというレーベルを共同設立した際、革新的なノイズ・ロック・アクトであるChromaticsの一員としての自身の音楽によって、彼は周囲と比べてきわめて時代遅れな音楽家という役を与えられてしまった。しかし2012年Chromaticsの4作目『Kill for Love』リリースのタイミングというのはこの上なく完璧なものだった:Jewelの夜行性的な美学がニコラス・ウィンディング・レフンのスタイリッシュなヒット映画『ドライヴ』において主要な音響的役割を果たしていたからだ。『Kill for Love』は完璧で非の打ち所のないポスト・ジャンルの混合である。イタロ・ディスコのスローモーションな鼓動、クラシック・ロックのような自己神話化、 そして汚れたレンズのようなアンビエントなシンセの運動。これほどまでに奇妙でタイムレスな音楽というのは、正当な評価を受けるのにも時間がかかるものなのだ。–Larry Fitzmaurice

Part 11: 100位〜91位