海外音楽評論・論文紹介

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<Bandcamp Album of the Day>Lande Hekt, “Going to Hell”

「私はこれまで他人のために生きてきた/それはいい意味でではなく、本当にクソみたいな意味で」Lande Hektはこの『Going to Hell』のタイトル曲でこう歌っている。この曲はカトリック教会がLGBTQの人々の受け入れを拒否したことに対する抗議の歌である。2021年において、(クィアであることを)公表して誇りに思うことは陳腐なことのようにすら思えるが、それでもクィアのコミュニティは後退を――もしくはそれ以上のことを――強いられることがある。それも、教会や政府、権力者や社会的慣習によって。ダイナミックなポップ・パンク・バンド=Muncie Girlsの一員でもあるHektは、デビュー・ソロ・アルバムである本作において、そういった苦難をはじめとする様々な事柄について歌っている。

『Going to Hell』においてHektのパンク的ルーツは明白に表れているが、より抑制されたやり方によってである。楽曲は簡素でわかりやすく、ボーカルはミックスの中でも上の方に配置されている――それはまるでHektがリスナーたちに一語一句聞き逃してほしくないと願っているかのようである。音楽的に、このアルバムはフォーキーなパンクの範疇に収まるものである。Billy Braggの作品に入っていてもおかしくないような民主主義賛歌 ”In the Darkness”、『Ivy Tripp』期のWaxahatcheeを想起させるような、よりポップな ”Stranded in Berlin” などはその路線である。Hektは親密さやロマンス(”December” で彼女は得体のしれない感情に恐れおののいている)、政治(フックのある ”80 Days of Rain” は気候変動が野生動物たちに与える影響を詳細に伝えている)といったトピックに真正面から取り組んでいる。本作でHektはパーカッション以外のすべての楽器を演奏し、ストーリーテラーであると同時に熟達したミュージシャンであることを示している。このアルバムがまじめな、クィアに焦点を合わせたレーベルであるGet Better Recordsからリリースされるのはまさにうってつけである。そのことによってHektがこれらの楽曲に優しく接するためのスペースや力が生まれているように感じる。彼女には「自分を立て直したい、だって一度だめになってしまったから」と認める勇気がある。

By Kerry Cardoza · January 20, 2021

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