海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 21: 100位〜96位

Part 20: 105位〜101位

100. Jamie xx: “I Know There’s Gonna Be (Good Times)” [ft. Young Thug and Popcaan] (2015)

www.youtube.com

囁くようなインディー・ロック・トリオ、The xxのシャイなプロデューサーが、ものすごいパーティーを開くこともできるということを、誰が知っていただろうか?ダンスホールのスター・Popcaanとトラップの王族・Young Thug、そして70年代のアカペラ・グループThe Persuasionsからサンプルされた歌声が、Jamie xxの2015年のデビュー作『In Colour』に収録されたこの“I Know There’s Gonna Be (Good Times)”で出会う。Popcaanの巧みな歌声がJamie xxのスティール・ドラムのカリブ海的ルーツを増幅させ、Thugはこの曲の空白の中でめまいがするほどの金切り声を上げている。彼が“I’ma ride in that pussy like a stroller”と宣言するとき、彼の歓喜は伝播していく。–Marc Hogan

99. Mac DeMarco: “Ode to Viceroy” (2012)

www.youtube.com

粗悪なことで悪名高いタバコのブランドに対する真心のこもったトリビュートが、Mac DeMarcoにとってのキャリアを左右するほどの大きな転機となった。彼の処女作となったミニアルバム『Rock and Roll Night Club』でこのカナダ人シンガーはドヤ顔をした小汚い変人としての自己を確立した—だがその男の楽曲にしっかりと耳を傾ければ、その野太い声とスローモーションのからくりの下に大きな希望が見えてくるだろう。“Ode to Viceroy”で、彼は自身の苛烈なタバコ中毒、そしてタバコを買いに頻繁に売店を訪れることを優しく歌い上げる。「泣いているところを見せないでくれよ」と彼は甘く囁く。そしてまたタバコのパックについて歌い始めるのだが、そのバカバカしさはほとんど感じられない。この似つかわしくないラヴ・ソングは彼がタバコに火をつけ、煙を吸い込み、そして咳き込む声が残響になり崩壊していく音によって幕を閉じる。-Evan Minsker

98. D’Angelo & the Vanguard: “Really Love” (2014)

www.youtube.com

D'Angeloはあまりにもナチュラリストであるがために、我々は時に彼の特異性を見逃してしまうことがある。“Really Love”は深い愛、自分が愛情を注ぐ者の軌道上に落ちていく至福の感覚を呼び起こす。“I'm in really love with you”というD'Angeloの甘い囁きはその正直さとかすかな違和感によって無邪気に感じられる。“really”という言葉が奇妙に使われていて、副詞というよりは形容詞として使われているようだ。最初は奇妙に聴こえるそれも、ストリングが震え、クオンタイズされていないドラムが入ってくれば、すべての言葉の用法が示し合わせたウインクや、親密さの閃光となる。

この曲にはヴァイオリン、ヴィオラコントラバスシタール、複数のギター、ホーン、シンセ、そしてCurtis Mayfieldのサンプルまでも含んだ、スペイン語によるスポークん・ワードのイントロが含まれている(D'Angeloがそれらのうち多くのパートを演奏していることは格段驚きではない)。2014年、アルバム『Black Messiah』からのリード・シングルとして“Really Love”がリリースされると、このリッチさは生命のように思えた:D'Angeloは14年間ほぼ姿をくらましていたが、決してダラダラしていたわけではなかったのだ。–Stephen Kearse

97. Snail Mail: “Pristine” (2018)

www.youtube.com

駆動するギターとガシャガシャしたドラムによって高揚されながら、Snail MailのLindsey Jordanはこの“Prisntine”で墜落しそうになっている人間関係について嘆いている。この若きインディー・ロック・ミュージシャンは苦悩に満ちた考えを重ねに重ねた自身の痛みの壮大さを受け入れている。「私は自分のことはわかってるし、他の誰も愛することはないんだろう」「私のために私を好きになってくれない?」「何を見ても君を思い出す、明日も、いつになっても」というこれらの一行一行が、極めて美しく、全てを飲み込んでしまうような十代の心痛を蒸留している。これらの言葉で、Jordanは関係性をすべて燃やし尽くしてしまうための準備をしている。“Pristine”は燃える。終わってしまったロマンスから最後の美しいスペクタクルを作り出そうという衝動を燃料にして。–Vrinda Jagota

96. Thundercat: “Them Changes” (2015)

www.youtube.com

ファンク、ヨット・ロック、そしてアストラル・ジャズの外側の範囲を探求する音楽を奏でる巨匠として、Thundercatは常に敏感な底流を示し続けてきた。最初の2枚のソロ・アルバムでは、彼はGeorge Dukeの愛のアンセムをスローダウンさせ、自身の猫について愛を込めて歌い、亡くなった友人への悲痛なトリビュートを作曲した。“Them Changes”は2015年の彼のEP『The Beyond/Where the Giants Roam』に収録された曲で、そのような脆弱性と彼のベストの一つに数えられるグルーヴが一体化している。これは感情的な意味で、そして文字通りの意味で破壊されることについての、どのようにして心臓が胸からちぎり取られ床勝ちで覆われていくのかということについての、口数の多いストンプである(この男がよくできたサムライ映画への愛をもっていることは核に値するだろう)。Thundercatはこの曲の中で呆然とし、混乱している。助けを求めながら、何が起こったのかを理解できずにいる。そしてあるインタールードの中で彼の信頼できるベースが遠ざかっていき、彼は空気のように希薄な「ooooh」を歌う。大胆さと壊れやすさのスウィートスポットをしっかりと抑えながら。–Evan Minsker

Part 22: 95位〜91位