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<Bandcamp Album Of The Day>Quelle Chris & Chris Keys, “Innocent Country 2”

Quelle Chrisとプロデューサー・Chirs Keysによるコラボレーション、『Innocent Country』(2015)で、このラッパーはその時まで常套手段としていたストーナー自慢のヴァースからの変化を示した。そのアルバムは内省的で思索的で、Quelleの作詞は人生の薄くらい片隅を思い切って見つめている。そしてそれから5年たった今、そのように鋭く洞察力に富んだアプローチはQuelle Chrisの作品の重要な位置を占めていて、この『Innocent Country 2』―彼のキャリアの今の段階を始動させたアルバムの続編―が同系列のものと言うよりはなにか対になっているようなものであるように感じさせる。

『Innocent Country』が有無を言わさないほどにダウンビートな作品であったとすると、『Innocent Country 2』は人間関係の中での癒やしを見つけるためにそのフラストレーションから抜け出す必要があることを認識している。Keyのプロダクションの中にある上品な緊張感が、アルバムの中の比較的明るい瞬間にも微妙な陰りを加えている―彼の歪んだテープのようなピアノの音色や少し遠くにあるようなドラムはまるで遠い記憶を深く潜って見つめているようである―そして“Ritual”での祖先を思い出させるようなDr. Tennilleの起用、“Black Twitter”のソーシャル・メディアにまつわる雑談などの団結の感覚は、ズラッと並んだゲスト・リストのみならず歌詞の中にも見つけることができる。

しかし作品の推進力となっているのはQuelleのMCとしての強さ―作詞とフロウ両方―である。悪い関係性から抜け出そうとしている時でも(“Outro/Honest”)、嵐のような強靭さについての賛歌をCavalierHomeboy Sandmanと交わしているときも(“Sacred Safe”)、信仰を探しながら誠実さを放射しているときも(“Graphic Bleed Outs”)、プレッシャーに直面しながらも彼は楽観的なのである。彼の存在は共有された不安を通じて仲間意識を芽生えさせる:彼のおどけた冷笑主義人間性に富んでいて、彼の目立たなさにはギミックよりも共感を感じる。そして彼はそれら全てを、ビートに乗せながらもまるで会話のような気楽さでデリヴァリーするのだ。

By Nate Patrin · April 24, 2020

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