Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 22: 95位〜91位
95. Rihanna: “Bitch Better Have My Money” (2015)
このミュージック・ヴィデオは、そのラディカルな重要性の解説と並んで、多くのショッキングな批判を受けることになった。その中で、Rihannaはたいていの場合は男性によって使われるフレーズを平気で使い、自分の会計士を脅している。その過程の中で彼女はその会計士の妻を誘拐し拷問し、やがてその男の首にチェーンソーの刃を突き立てる。このヴィデオの政治性を読み解くには数多の方向が考えられる:どのような種類の暴力に対しては我々は敏感になり、何が我々を居心地悪くさせるのか? パワフルで怒れる女性が同時にフェミニンであるということはどのように見えるのか? 白人女性は白人男性の悪い行いにどのように加担し、どのような利益を得ているのか? しかし究極的には、このビデオが「良い/フェミニスト的」なのか「悪い/拒否すべき」なのかを決めることに意味はない。女性にとって自由とはどのようなものなのかということは一つのルールで単純化できるものではない。でも、これだけは言える:“Bitch Better Have My Money”は、Rihannaが金、友人、復讐、そして何よりも自分自身を一番大事にしているということを歌った楽曲であり、ヴィデオである。–Vrinda Jagota
94. Hurray for the Riff Raff: “Pa’lante” (2017)
1983年の詩“Puerto Rican Obituary”で、ニューヨリカン(訳注:ニューヨークに住むプエルトリコ人ディアスポラのこと)の詩人・Pedro Pietriは同胞たちに自己理解、自己認識を促した。それから40年以上がたった後、Hurray for the Riff Raffのシンガー/ソングライターであるAlynda Segarraはこの詩を、2017年のアルバム『The Navigator』の最後から2番目の楽曲、“Pa’lante”を書く燃料として用いた。この作品で、、「自分にとっての英雄はいつも白人男性だった」、そんな人生を送ってきたSegarraはプエルトリコ人としてのアイデンティティを新たに主張している。しかしこの楽曲が究極的な目的を見出したのは、その年にハリケーン「マリア」が被害をもたらした後になってからだった。被災以来Segarraはずっと、自分に何かできることはないかと、破壊された祖先の故郷を訪れる方法を模索した。彼女は2018年12月についにその地を訪れた。その土地で、“Pa’lante”を民衆の前で歌った彼女はこの歌の時空を超えた起源を完全に理解した。その時のことを彼女はBillboardにこう語っている。「自分がこの曲を書いたのではなく、私たちでこの曲を書いたように感じた」と。–Jonah Bromwich
93. Radiohead: “True Love Waits” (2016)
『A Moon Shaped Pool』の最後の曲として再浮上するまで、“True Love Waits”は失われてしまった誠実なアコースティック・バラードとしてRadioheadのファンの間ではよく知られていた。30年上前に書かれ、このバンドの最盛期の傑作の中にうまく組み込むことができなかったこの曲は、もったいないことに2001年のライブ・アルバム『I Might Be Wrong』の最後に収録されるにとどめられていた。しかしYorkeはそのスタジオ録音版を見捨てたわけではなく、やわらかな曲の中で機能させようとしていた実験的なシンセサイザーとローズ・ピアノを取り除いた。その最終形の中で、“True Love Waits”は間接的にロマンティックさを保っているが、パートナーに対する懇願ではなく、もっと孤独な運命に対する諦念のようなものが浮かび上がっている。このバンドの(そしてこの楽曲の)の長きにわたる軌跡の文脈においてみると、このトーンの変化は大きなものに感じられる:Yorkeとその仲間たちは年齢を重ね、自分の思うように行くことがいかに少ないのかということに気がついたのだ。–Jillian Mapes
92. Meek Mill: “Dreams and Nightmares (Intro)” (2012)
時代の経過とともにアーティストのキャリアが熟成していくとき(これは実際によく起こる)、ドラムのサウンドや騒がしい合いの手などそれだけによって自分が存在していたことが証明されるようなものを残せるものは幸運である。Meek Millは動乱の10年を過ごしたが、この“Dreams and Nightmares”によって、彼は絶え間なく続く200秒間の栄光をヒップ・ホップ界に作り上げた。同名の彼のアルバムに繋がるこのイントロを要約することなどできやしない。“Dreams and Nightmares”はそれ全体で一つであり、部分だけ聞いてもなんの意味もなさない。
ああ神よ、ビート・チェンジの前にあの涙を誘うようなグランド・ピアノのサウンドを切り離したDJを守り給え―このスイッチこそが重要であり、アクセル・ペダルである。この曲はあまりにも強力であり、サブジャンルを生み出してしまったほどだ:Tee Grizzleyの“First Day Out”からCardi Bの“Get Up 10”に至るまで、このような青々しいイントロ〜ガツンとくる後半という構造を直接的に真似たものがシーンに溢れかえった。しかしそのどれも、Meek Millのゾッとするほどの強烈さに匹敵することはなかった。–Jayson Greene
91. Haim: “The Wire” (2013)
Haimのデビュー・アルバム『Days Are Gone』は決してグルーヴ感に欠ける作品ではないのだが、この“The Wire”はその中でも最もグルーヴ感あふれる一曲である。この曲を歌う3人の姉妹はこの時点までに文字通り人生のすべての時間を共に過ごし、セッションの腕を磨き、Laurel Canyon風のソフト・ロック×90年代R&B的なサウンドを完成させてきたわけで、手拍子のメロディと恋人に絶縁を叩きつける歌詞の上を滑走していく彼女たちのヴォーカルのシンクロニシティは最大値に達している。彼女たちは厳密に言うと謝っている側だ―「私はコミュニケーションが苦手なの、私にとってはそれが一番難しいこと」―しかしごめんなさいと言っている最中にもこんなにぶっきらぼうに聴こえるというのは優位性をもっているという証であり、これからもそうあり続けるだろう。–Jeremy Gordon