海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 23: 90位〜86位

Part 22: 95位〜91位

90. Blawan: “Why They Hide Their Bodies Under My Garage?” (2012)

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 Blawan“Why They Hide Their Bodies Under My Garage?”はもしかするとこの10年で最も快活で意地悪い楽曲かもしれない。暴れまわる狂牛のように疾走する、邪悪でにらみつけるようなスピリット。金床と包丁を叩き合わせるような強烈なドラムのグルーヴの上で、このイギリスのプロデューサーはFugeesのサンプルをフリップし、連続殺人犯がうっかり自白してしまったようなサウンドを作り上げている。さらに、ホラー・コア的なエフェクト加えるために彼は数小節ごとにゾッとするような叫び声を付け足している。この曲のもつ悪意は滑稽なほどであり、Skrillexが自分のセットでプレイし始めるほどだ。古き良き殺人ファンタジーによって、テクノ・アンダーグランドとEDMのファーの付いたブーツを一緒くたにしたのである。–Philip Sherburne

89. Frank Ocean: “Pyramids” (2012)

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2012年の中頃、Frank Oceanは単に、変わったR&B路線のチャーミングなミックステープを出しているOdd Futureの中でも目立たないメンバー、あるいはJAY-ZとKanyeの『Watch the Throne』に参加し、Beyoncéに1曲提供している男でしかなかった。彼はまだアイコンではなく、世間も彼がどれほどのことを成し遂げることができるのかをほんとうの意味ではわかっていなかった。そこに”Pyramids”が発表され、それは地盤をも揺るがした。時代、スタイル、そして冷徹な人物描写の中を進んでいくこの3つのパートに分かれた10分の曲は、彼が奇跡を起こせる人間であることを象徴的に証明した。古代エジプトのファラオ、ラス・ヴェガスのセックス・ワーカーたち、クレジットはされていなJohn Mayerのギター・ソロ―どういうわけか、彼はこれらすべてを自然な流れで聞かせてしまう。最も印象的なのは、その結果できあがったこの曲がOceanの広大な野望に押しつぶされないほどにライトでキャッチーであるということだ。–Marc Hogan

88. Japandroids: “Younger Us” (2010)

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“Younger Us”は自ずと達成されるロックンロールに関する予言である。Japandroidsのフロントマン、Biran Kingは大学を卒業すると、カナダのブリティッシュ・コロンビアという小さな町出身の同胞たちが「普通の生活」―結婚、ローン、子供―に落ち着いていくのを見て「そんなのくだらねえ」と考えた。そこで彼はドラマーのDave Prowseとバンドを始め、十代の自由さ、盛りのついた色欲、起き抜けに親友とビールを飲むことについての曲を思いついた。“Younger Us”はJapandroidsの出世作となった『Post-Nothing』に向けたセッションの間に書かれた。このとき、このデュオは自分たちのための音楽を作っていた。Kingの感情的なディストーションとProwseがひっきりなしに叩くシンバルによって駆動するこの躁的なノスタルジアは過去を振り返っているのと同時に未来をも思い描いている:この楽曲は失われた若さを嘆くのではなく、むしろそれを取り戻そうと懸命にもがいている。そして2010年にこの“Younger Us”がリリースされる頃には、Japandroidsは故郷から遠く離れ、次のソールドアウト・ショウに向かう道中、朝まで飲み明かしていたのだった。–Ryan Dombal

87. Rich Gang: “Lifestyle” (2014)

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2014年、Cash Money Recordsの共同設立者でありラップ史の中でも最も優れたA&Rの一人でもあるBirdmanは2人の有望なアトランタのアーティストを組み合わせた。中毒性のあるエキセントリックさが売りのYoung Thug、そして低い声で感傷的に歌いそれでいて順応性も高いRich Homie Quanの2人が、完璧なシナジーの最高のジャムのために集められた。“Lifestyle”でのオートチューンがかけられた彼らの震え声は、この曲で彼らが描いている生活様式と同じく青々しく生い茂っている:Thugははちきれんばかりのエネルギーを注入し、山の頂上から雲のような煙を吐き出す。Quanは一行ごとにコンマをうちながら横たわっている。この楽曲はThugとQuanにとって最大のヒットとなり、この3人は傑作ミックステープ、『Rich Gang: Tha Tour Pt. 1』を生み出すことになる。しかし、Cash Moneyでのさらなる成功を予見していたように思えるこの同盟は程なく消滅し、この3人はそれ以降互いに反目しあっている。“Lifestyle”はあり得たかもしれない未来のスナップショットであり、回復不能な形で壊れてしまった王朝をの内部を垣間見ることができる資料である。–Sheldon Pearce

86. Destroyer: “Chinatown” (2011)

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このDestroyer『Kaputt』の1曲目はまるで白日夢のように広がっていく。この曲に込められた全てが鮮明に、そして同時に非現実のように感じられる:不鮮明なサックスは曲そのものを超えたところから手招きしているようで、Dan Bejarのヴォーカルはたまたま耳に入った会話から取られている:「君は信じられない/風がどうやって海と話をしているかを」と彼は驚いてみせる。彼のいっている意味が厳密にはわからないかもしれないが、一度彼が吹きさらしの波をあなたに差し向けてしまえばそれを消し去ることなどできない。「立ち去ることなんかできない」と彼は繰り返す。それは罠にかかったというよりはむしろ夢中になっているように聴こえる。Bejarによる語り手にとって“Chinatown”が何を意味していようとも、それはなんだか甘美で逃れられない場所なのであるー地平線上で永遠に消えていく精神状態のように。–Madison Bloom

Part 24: 85位〜81位