海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 15: 130位〜126位

Part 14: 135位〜131位

130. A$AP Rocky: “Peso” (2011)

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“I be that pretty motherfucker”。この10年のラップ・ソングの中で、この5つの単語ほどすぐさまアイコニックになったフレーズで幕を開ける曲があっただろうか?“Peso”がブレイクした瞬間から、ニューヨーカーとしての生まれながらの権利を提示するA$AP Rockyはメンフィスとヒューストンのサウンドの上に築かれたスターダムの地位にボルトで固定されることは明らかであった。ヴィデオに映る彼は、上裸で、ワルで、黄金の歯と堂々としたカリスマが充満している。金が入ってくると、こんな冗談がついてまわった。彼はRakimにちなんだ名前を親につけられたのに、こんなラップをするなんて信じられるか?確かに、Rockyの音楽にあのニューヨークの先人たちほどに複雑で、革新的で、凶悪な部分はない。でも彼に「お前はprettyじゃない」とは言えまい。–Paul A. Thompson

129. Lorde: “Royals” (2013)

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この10年の最初に、ポップ・ミュージックはティーンエイジャーに彼らの欲望が何であるかを教えた。ティーンエイジャーたちがミュージシャンたちに教えたのではない。ラジオが言うところによれば、ティーンの夢というのは地球を割ってしまうような激しいパーティーであり、フットボール・スタジアムにぴったりの「ウォール・オブ・サウンド」的なシンセのプロダクションに見られるような、行きすぎたほどの過剰さであった。そしてそこにニュージーランドから16歳のLordeが、ものすごく垢抜けた交換留学生のように颯爽とチャートに入ってきて、いかに虎やジェット機、キャデラックについての曲に彼女が飽き飽きしているのかを、冷たく、ほとんどアカペラのような宣言として歌った。

“Royals”のラップ・ヴィデオを嘲笑うようなMVが人種差別であると言う抗議を集める一方で、Lordeはこの曲でスターダムを駆け上り、その過程でポップを変形させた。それからの数年、このジャンルはより荒涼とした雰囲気になり、マキシマリストの詩は孤独と不安を強調した鬱屈とした歌にとって代わられた。そしてそれからというもの、HalseyやClairo、Billie Eilishといった、同じようなティーンの退屈を歌う新しい時代のアーティストが急増した。彼女たちは男性の視線の術中にはまることよりも、それらを無視することを目指した。この曲は新しい種類のポップ・スターを紹介しただけでなく、世界で最も人気のあるアーティストは羨望だけではなく、共感もされなければいけないと挑発した。–Hazel Cills

128. Young Thug: “Danny Glover” (2013)

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 2013年、Young Thugは未知の惑星から降り立った。誰もが学びたいと切望する言語と、これまでの歌うラッパーたちについて我々が知っていたことの形を変えてしまうメロディーを携えて。アトランタの外に住む多くの人間にとって、この“Danny Glover”がこの別世界の住人を知るきっかけとなったであろう。Thugのラップはファストで、耳に残るパンチラインを吐く。彼はどぎついクセを持っているが、それらは全て枯れのお気に入りのプロデューサーSouthsideのハイハットと808サウンドの中で美味しく料理される。“Danny Glover”が発表された時、Thugのラップは誰にも似ていなかった。いまや彼のいないラップのサウンドは考えられない。–Alphonse Pierre

127. James Blake: “CMYK” (2010)

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James Blakeはこの“CMYK”で、ベース・ミュージックの進化における新たなステップへの指針を示した。KelisAaliyahをサンプリングしたこの曲は90年代後期のR&Bを振り返っているが、そのリボンのようなボーカルとビロードでできたハーモニーはこの若きイギリスのプロデューサーが作る音楽の特徴となった。さらに重要なのは彼がこのボーカルにどのような処理を施したのか、だ。チョップし、ピッチを変化させ、そしてそれらを自身の声と重ね合わせることで、湿地帯のように弾力のあるシンセの上をまるで蜘蛛の巣のように漂う奇妙な交配種のコール・アンド・レスポンスを作り出している。それは新しい世界のサウンドが形になっていく過程の産物であり、その後の彼の作る音楽の道標となるのだった。–Philip Sherburne

126. Ciara: “Ride” [ft. Ludacris] (2010)

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“Ride”のビデオの中で、Ciaraはその類まれなダンスのスキルと純然な肉体美を誇示している。彼女はびしょ濡れの下着姿で機械仕掛けの牛にも跨りもする。BETはこの色っぽいビデオの放送を禁止したと伝えられている。これはCiaraが「非常に不運だ」とした決断であり、決して引き下がらず、控えめにしたヴァージョンも制作しなかった。彼女には彼らのお墨付きなど必要としなかった。“Ride”でこのアトランタのシンガーは自身の芸術面での指揮を見せびらかし、トラックの歪んだビートをほとんど刈り取られたボーカル・パフォーマンスと合わせ、その自信を誇張している。聴いただけでムラッとくるようなLudacrisのヴァースをもってしても、Ciaraのショウを邪魔することはできない。彼女は一歩も譲らないのである。–Matthew Strauss

Part 16: 125位〜121位