Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 20: 105位〜101位
105. Kendrick Lamar: “DNA.” (2017)
韻を踏んでいる歌詞をつなげるだけではなく、それらに主題を託し、大きなアイデアをマントラの形に落とし込むような枠組みをつくりあげることは、真のラッパーであるかどうかを試す試練である。だからこそ難解な言葉遊びが詰め込まれたラップはカルト的人気は獲得できても日常的なリスナーの耳には届かないのである。「シンプルであり続けること」というのは多くのリリシストをもってしても固執することが難しいモットーだ。この意味においてKendrick Lamarは特異な存在である。彼のリリックは濃密でありながら、大衆にも共鳴していくようなインパクトのある大きなアイデアへとズームアウトしていくのだ。その例がこの“DNA.”だ。2017年の『DAMN.』に収められた猛烈な個人的声明であり、世代全体にのしかかりアフリカ系アメリカ人の集団的緊張の瞬間を切り取った作品である。大統領お墨付きの大量虐殺的ヘイトスピーチがニタニタと笑いながら勢力を拡大していく中で、Lamarは数世紀にわたるルーツの深さの上に立ち、吠えては噛み返す準備のできている人々の鋼のような自信を前向きに、声高だかに叫んでいる。この曲の暴動的な後半はこの混沌の中での最終戦争を布告する。Lamarの息もつかせぬこのスタンザは、ピューリッツァー賞の委員会をも黙らせてしまった。–Matthew Trammell
104. Amen Dunes: “Miki Dora” (2018)
昔々は60年代の最初期、カリフォルニアのサーファー・Miki Doraはカウンターカルチャーのアイコンであり、無法者の犯罪者であり、アメリカ人の男性性を煮詰めた蒸留物だった—the stuff of Tom Wolfeの本やDennis Hopperの映画の本質である。2018年、彼はAmen Dunesの5作目『Freedom』内の登場人物の一人として生き続けていた。ここで、Doraの人生はインディー・ロックの作曲家Damon McMahon自身の人生の鏡像である。“Miki Dora”はサーファーについての歌だが、それはMcMahonの青年期の終わりについてであり、彼にとって男性性と向き合うこととは何を意味するのかについての歌である。半世紀も前にDoraが乗っていたこれらの西海岸の大きな波は、この曲の中では絶え間ない魅惑的なリズムに姿を変える。やがてギターが少し広い空間を使い始め、McMahonの永久にストーン状態の声も少しだけではあるが盛り上がりを見せる。しかし“Miki Dora”の中で波同士が衝突することはない。そこにあるのは波乗りと、太陽と、パールホワイトの漂流物だけである。–Sophie Kemp
103. Erykah Badu: “Hello” [ft. André 3000] (2015)
Erykah Baduは2015年に発表したミックステープ『But You Caint Use My Phone』で他アーティストによる電話にまつわる楽曲を再解釈し、長距離間コミュニケーションの性質を再解釈した。彼女が考えることには固定電話は人々を繋げたが、スマートフォンは距離を作り出す。このテープの起源は“Hotline Bling”の思考実験であるが、理論的な帰結はこの(Todd Runglen経由の)Isley Brothersの替え歌、“Hello”である。Baduは第一子の父親、André 3000と音楽の面でリユニオンを果たしている。彼女は受話器に向かって甘い挨拶を囁き、彼は「開く」ことの恐怖を紐解いていく—詮索付きの恋人の前に携帯電話をロックしない状態で置いておくことのデジタルの恐怖であれ、座って待ちながら、この電話に出られてしまったら最後、自分の心境を打ち明けなければならないというアナログの恐怖であれ。 二人の人間が何かを解明しようとしているように感じる。アメリカの家庭の約半分にはもう固定電話がないそうだ。しかし、長電話に夢中になりながら電話線を指の周りにグルグル巻きにしてしまうような楽しみや不安が、ここでは健在である。–Sheldon Pearce
102. Katy Perry: “Teenage Dream” (2010)
Katy Perryのキャリア初期の漫画のようなヒット曲の文脈において、“Teenage Dream”のミュージック・ヴィデオは率直で飾り気がない。花火を吹き出す胸もなければ、サイケデリックなキャンディだらけの風景や暗闇に光る宇宙人の誘拐もない。Katyと酔っぱらった彼氏、そして同じようにフォトジェニックな友達たちがセピア色の車に乗って海岸を流している。楽曲もまたスマートで抗い難い。晴渡った、メジャーキーのメロディーはDon Henlyの“Boys of Summer”やNew Radicalsの“You Get What You Give”など、ノスタルジアとワイドスクリーンの感情を伴った他のポップ・ヒットと比較したくなる。
Perryがこの曲を録音したのは、彼女が単なるポップ・ノベルティ以上の存在になろうと試みていた時期である。その野望に自分でも気がついていたのか、彼女はかつてインタヴューで「みんなには私のことを部屋に貼ってあるポスターみたいに思って欲しい。そうすれば彼らの夢の中に侵入して、私が十代の夢になれる」と語っていた。そしてまさにその通りに、彼女の音楽は大胆に、そしてさらに開かれた、80年代のポップスターたちから多大に影響されたものとなり、彼女はそんなスターたちのチャートの記録と競うことになった。一方で、彼女は20代の半ばを過ぎ、結婚も目前に控えており、さらに時代は彼女のポジティヴであっけらかんとした仕草が時代遅れになるような10年に突入しようとしていた。しかしこの曲のヴィデオでカメラを見つめて助手席に座る彼女を見ていると、彼女ならどうにかやっていけるだろうと思えてくるのだ。–Sam Sodomsky
101. TNGHT: “Higher Ground” (2012)
“Higher Ground”を聴くという経験は、大量のアイスコーヒーを飲んでいる時に貨物トラックに撥ねられることに似ている。TNGHTのプロデューサー、Hudson MohawkeとLuniceはこの曲でLex Lugerのダーティーなサウスのプロダクションと現代のダンス・ミュージックの間のギャップに橋をかけ、EDMトラップの大流行の先鞭を打った(そしてその誕生に一役買った、とも言われる)。しゃがれたブラスのメロディ、猛烈なブレイクダウン、そしてJulie McKnightの2002年発表のクラブ・アンセム“Home”からとられたヴォーカルのサンプルは合わさって燦然としたエレクトロニック・ミュージックの金字塔を立ち上げている。この曲が有名になったことでこの作者たちはスポットライトから退き、TNGHTの信号のスイッチを静かに切ることになったが、それはフェアな決断である。その音像それ自体のマグニチュードを考えたとき、それは全く乗り越えられないものなのだ。–Noah Yoo