海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・アルバム200 Part 3: 180位〜171位

Part 2: 190位〜181位

180. Chvrches: The Bones of What You Believe (2013)

f:id:curefortheitch:20191019103742j:plain

理論上、そんなことはうまく行くはずもなかった。気難しく、猫背で歩くようなグラスゴーポスト・ロック・バンドの中年元メンバー2人が、第3世代のエモを聴いて育った若いシンガーと組む、なんてことは。彼らが作るのは完全に自作・自己プロデュースによる、明るく光り輝くようなシンセ・ポップだが、それはあまりにも完璧に作られていて、まるで科学者が作ったみたいだ。そして2013年当時にあって、この『The Bones of What You Believe』はチルウェイヴの衝撃から覚めやらぬ者たちにとって理想的な目覚ましアラームとなった。“The Mother We Share”、“We Sink”、そして“Recover”などの高くそびえ立つ曲群においてLauren Mayberryの透明感ある歌声は、魅惑的な詩と残酷なまでの誠実さでひび割れた関係性を脱構築してみせる。一方で音楽はNew OrderDepeche Modeにも通じるものがあり、ダンスフロアのダイナミクスを完全に掌握している。このデビュー作でChvrchesはインディー・ソウルを手に、ダンス・ポップの新しい時代を開始した。数多の「スポティファイ・コア」バンドが後に続けと出現したが、これと同じマジックを捉えることができた者はいない。–Amy Phillips

Spotify-core”なる単語が出てきて、面白そうだなと思ったのでこの記事も読んでみました。

thebaffler.com

これ曰く“Spotify-core”というのはNew York Timesのライターが考案した言葉で、「ムードを高めるバックグラウンド音楽の、データに基づいたシステムを念頭に置いて作られた音楽」らしい。要するに「Chill Hits」とかに入っているような、「なんだかいいよね〜」っていう曲のことですね。

179. Shabazz Palaces: Black Up (2011)

f:id:curefortheitch:20191020230732j:plain

今もそうだが、2009年にShabazz Palacesがシーンに出現した当時、音楽というものに謎が入り込む余地はあまりない。2枚のEP、シンプルなジャケット、コンセプチュアルで実験的な音楽。当初我々が知り得たのはこれだけの情報だった。この『Black Up』がドロップされる頃には、このグループはIshmael Butler(元・Digable Planets)とマルチ楽器奏者・Tendai Maraireによって率いられているということがわかったが、そのバイオグラフィーはさほど重要とは言えなかった。彼らは自分たちの音楽に多くを語らせた。『Black Up』には黒く濁ったインストゥルメンタルと大げさで内省的なライムがあふれるほど詰まっていた。そのサウンドにはジャズに近いものがあったが、同時に静寂、もしくは簡素であることのマジックに対する堅固な理解に根ざしたものでもあった。“Free Press and Curl”がいきなりゴスペルになる展開、“Recollections of the Wraith”がコーラスでのヴォーカルの急上昇の前、曲の内部で取っ組み合いをするような場面など、楽曲は予想だにしないクライマックスで溢れかえっている。あの大きな謎から、この不可能なヴィジョンのアルバムが生まれてきたのである。–Hanif Abdurraqib

178. Savages: Silence Yourself (2013)

f:id:curefortheitch:20191022012041j:plain

この10年を代表するポスト・パンク・ヒーローは、ステージ上でピンクのピンヒールを履き、モノガミーをまるで炭疽菌のようなものとして響かせる。Savagesのフロントウーマン、Jehnny Bethsangは陰険で眠たそうな横柄な態度で歌い、家父長的であるもの全て、そしてバニラに無差別の軽蔑を向ける。彼女の下ではぶっきらぼうで口達者なベースと深刻なタムがこの新しい時代に頷き返す。このロンドンのバンドのメンバーたちほど勇敢な女性にとって、この時代はより縛られているように感じる時代だ。

Savagesのこのデビュー作よりも、彼女たちにまつわる急速に広まった神話のほうがセンセーショナルだった。彼女たちのライヴは爆発的で、うす暗くて汗の匂いがするような、彼女たちよりも前の時代を恋しく思っていた者たちにとっての慰めとなった。しかしこの『Silence Youself』にはそれらのアドレナリンが余すことなく捉えられている。渦を巻きながら火花を上げるギターと狂気じみた叫び声は、テクノロジーの危険性を解くとともにそれを武器として使用している。無視するには大きすぎる音で、この作品は自己満足な基準について議論の声を上げる。結婚というものは美しいものではなく、息が詰まるようなことかもしれない。情報の際限ない流通は、我々を教え導くものではなく、我々を中毒にするものかも知れない。そして、その年の最も凶悪なロック・アルバムにはクラリネットのソロが含まれているかも知れない。この作品を聴いたあとでは、途端にオルタナティヴという音楽が古臭く聞こえたものだ。–Stacey Anderson

177. Margo Price: All American Made (2017)

f:id:curefortheitch:20191022013350j:plain

Margo Priceは何年もの努力の末、一夜限りの人気を得た。2016年にJack WhiteのThird Man Recordsからリリースされた彼女の名高いデビュー作『Midwest Farmer's Daughter』は、彼女がナッシュヴィルの堀で10年以上も過ごした後にようやくリリースされた。しかしそのアルバムは、彼女が次作『All American Made』において電波やステージ上に持ち込むこととなる、チクチクと胸を指すような感傷を積んだトロイの木馬だったのである。Priceは政治的なこともパーソナルなことも、両方見分けがつかなくなるほどにかき混ぜてしまう。“Heart of America”や旅芸人を思わせる“Cocaine Cowboys”といった楽曲で、彼女はオールドスクールなホンキー・トンクのリズムを引っ張り出してくるが、それはちっとも懐古主義に陥ることがない。“Pay Gap”ではアコーディオンローンスターのギターに装飾されながら賃金の不平等を訴え、ディラン風のタイトル・トラックでは荒廃したアメリカをさまよい歩きながら、Princeは彼女に痛み(正確には我々の痛み全てなのであるが)がこの場所特有のものなのかと問うている。–Stephen Deusner

176. Gil Scott-Heron: I’m New Here (2010)

f:id:curefortheitch:20191022201837j:plain

自身の“Home Is Where the Hatred Is”のフックがKanye Westの『Late Registration』で使われてから5年、Gil Scott-HeronKanye Westをサンプリングし返した時、それはまるでメンターからの承認のように感じられた。70年代と80年代初期のアメリカにおける人種的・社会的混乱を機知に富んだやり方で蒸留したスポークンワード詩人、Scott-Heronはすでにヒップホップの祖先として崇められている。彼には今更何かを証明する必要はなかった。しかし62歳になっても、Scott-Heronはまだ注意深く耳をすましていた。彼の13枚目のアルバムにして、2011年の逝去前最後の作品となった『I'm New Here』で、彼はただ単に冷たく、ミニマリスト的な電子音楽に初めてかじを切っただけではなく、彼とプロデューサーのRichard Russellはそれらの要素を彼の鋭く、光り輝く声に新たな摩擦力を加えるために使ったのだ。哲学的で荘厳なねじ曲がった回想を綴った15曲の中で、Scott-Heronは通り過ぎた全てを尊ぶ。彼の人格を作り上げた強い女性から、彼に深く犠牲を強いた数々の過ちまでを。彼は時に深く孤独に見える。まるですべてを見てきて、変化というものはなかなかやって来ないものだと知っている隠遁の不眠症患者のように。しかしまた時には、彼は活力を増しているようにも聞こえるのだ。彼はこの美しい音色を残して、一礼して去っていったのだ。–Stacey Anderson

175. Jessie Ware: Devotion (2012)

f:id:curefortheitch:20191022204946j:plain

AdeleやFlorence Welchといった業界で強さを誇る優れた歌手と同時期にイギリスから登場したこのシンガー・ソングライター、Jessie Wareは飛び抜けていた。SBTRKTやJokerといったポスト・ダブステップのアクトたちとのコラボを経てWareは自身のアメリカのヒップホップとR&Bへの愛情をダンス・ミュージックと統合した。その結果生まれたこの作品は、のぼせるような愛情がWareの華麗で優美な声で届けられる、いかにも落ち着き払ったデビュー作であった。『Devotion』は豪華なポップ・R&Bと広大なパワー・バラードの間をすいすいと飛び回るのだが、Wareの柔和で洞察のあるタッチを逃さない。驚くほど耳にこびりつくBig Punのサンプルが“100%”のバックで疾走している(クリアランスに関してPunの財団との論争の末、のちに似たような音源と差し替えられた)ほか、アンセム“Wildest Moments”はトップ40をAdeleやWelchと競い合った。『Devotion』の多くの曲はテレビドラマやロマンス映画のサウンドトラックとして使用されたが、それは勲章のようなものである。Wareが提供したのはロマンスの中にある浮き沈みを極めて技巧的に、そして極めて軽いタッチで掘り起こす最上級品だった。–Eric Torres

174. Sharon Van Etten: Are We There (2014)

f:id:curefortheitch:20191022232454j:plain

この『Are We There』はSharon Van Ettenの感情の幅、ソングライティングの力、そして大いに身体的楽器と化した彼女の声の説得力、これら全てが深化したものである。このブルックリン出身のシンガー・ソングライターの声はまるで巨大なエンジンのように彼女の体を震わせ、“Your Love Is Killing Me”のような聞かせどころでは、まるで彼女のからだがばらばらになってしまうのを聞いているように感じる。彼女はまるで単語を一つずつ、壁に爪で刻み込んでいるようだ。

彼女の4作目『Are We There』は、彼女がインディー・ロックよりもクラシック・ソウルからの着想を多く得た最初の作品である。微かなオルガンのリックとスローでどっしりとしたドラムは猛烈な声を中心に据えるために設計されている。それがVan Ettenで、彼女のパフォーマンスは我々を串刺しにし、疲弊させ、洗い清めてくれる。–Jayson Greene

173. Hurray for the Riff Raff: Small Town Heroes (2014)

f:id:curefortheitch:20191024001658j:plain

ATO Recordデビューとなった『Small Town Heroes』がブロンクス生まれ、ルイジアナ在住のこのシンガー・ソングライターを世界に知らしめるその前から、Alynda Lee SegarraはHurray for the Riff Raffの名前でアルバムを何枚もリリースしていた。かつて貨物列車に飛び乗り旅をし、各地で大道芸人をしていたSegarraはアメリカ中のサウンドやメロディーをポストカードのように収集し、リズムがよろめくニュー・オリンズR&B、田舎のブルース、アパラチアン・ストンプをミックスし、ルーツ・ミュージックの新たな形を作った。『Small Town Heroes』に収録されているのは多くが旅の歌である―長地のミュージシャンとしての人生の回顧である―が、大人としての人生の多くをトランジットに費やした女性の思考でもある。彼女は歓喜、苦難、冷血の殺人などを見てきたが、それでもSegarraは彷徨い続ける。次の山の向こうに、次の角を曲がったところにあるものを見るのが待ちきれないかのように。“Small Town Heroes”で彼女は歌う。「次の年が開ける頃にはここにいないかも知れない。君もなにかから逃げるように生きたほうがいい」と。–Stephen Deusner

172. Popcaan: Where We Come From (2014)

f:id:curefortheitch:20191024004200j:plain

この『Where We Come From』のなかで、ジャマイカのシンガーPopcaanの柔らかなメロディーはDre SkullやDubbel Dutchなどの人気ビートメイカーのなめらかなプロダクションの上で光り輝いている。彼らは共にすべすべとしたラヴ・バラードからグラインド必至のバンガーまでを飛び回る。“Love Yuh Bad”はアルバムの中心となる曲で、Popcaanのデレデレとした歌詞がお尻を揺らすようなダンスフロア・グルーヴを支えている。同様に素晴らしいのは、素晴らしいタイトル・トラックで聞かれるようにPopcaanが地元の豊かなサウンドを伝統的なポップのバウンスと融合させていることだ。しかしこのようにジャンルを混ぜ合わせたり車線変更をしている中でも、Popcaanは明らかに、そしてかなり深くダンスホールというルーツを誇りに思っている。–Alphonse Pierre

171. JPEGMAFIA: Veteran (2018)

f:id:curefortheitch:20191025234544j:plain

ボルチモア出身のラッパー、JPEGMAFIAのダークでユーモラス(そしてときにトロール的)なパーソナリティが、この無邪気でありのままな出世作『Veteran』では完全に提示されている。空軍の退役軍人である彼の意識の流れ的な混沌としたフロウの中にはマコーレー・カルキン彼のプロデューサー・タグになったレスリングのテーマ曲など、珍妙な引用が見られる。彼はまたモリッシーのように、何かを嫌ったりする(“I Cannot Fucking Wait Til Morrissey Dies”という曲において)。ときに彼のラップはSoundCloudのコミュニティで愛されそうな、エアリーなトラックの上で激しくラップするものだが、ノイズ・ミュージックの上でTinderや政治的看板人物について叫ぶようにラップするものもある。一つ一つのサウンドや取り上げられている話題はどうあれ、この多動症的なアルバムは聴くものにエナジーを注入し、闘争の準備をさせてくれることは間違いない。–Alphonse Pierre

Part 4: 170位〜161位