海外音楽評論・論文紹介

音楽に関するレビューや学術論文の和訳、紹介をするブログです。

Pitchforkが選ぶテン年代ベスト・ソング200 Part 4: 185位〜181位

Part3: 190位〜186位

185. Sharon Van Etten: “Seventeen” (2019)

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Sharon Van Ettenのベスト・ソングとは、その抑制によって傑出していることが多い。彼女のハスキーで音域の広い声と濁ったギターサウンドには脱線しそうな感覚があるが、そこは彼女のどっしりと構えた感覚によって制御されている。今年リリースの『Remind Me Tomorrow』に収録されたこの曲は、その考え方を極限まで拡張し、そしてそのまま突き抜けてしまっている。編曲は完璧であり、シンセの揺れ、Van Ettenの声の震えで巧妙に満たされた典型的なキーボード・ロック・アンセムである。しかし、彼女の若年期のドッペルゲンガーへのアンビバレントな内省は徐々に後景化し、そこで彼女は全力で叫ぶ。「きみが私のようになるのを恐れているんだ」彼女の雄叫びはクールさを失っているが、なにかもっと獰猛なものを獲得していている。–Marc Hogan

184. Frank Ocean: “Chanel” (2017)

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2016年の『Blonde』のリリース後、Frank Oceanはこのアルバムの流動的な自信の上に作られた一連のシングルを小出しにすることで翌年を過ごした。この曲はその第一弾にしてベストで、シンガー、作曲家、ラッパーとしての彼の才能を完全に掌握したアーティストの姿が捉えられている。メロディや構造に関してはあまり語る余地がない。ピアノのコードもシンプルで半透明、ビートもカジュアルでゆったりとしている。Frank、そして彼の言葉が連れて行ってくれる場所がこの曲の全てである。丘の上の温水プール、東京の裏路地、デルタ航空のファーストクラス・ラウンジ。注意深く聴けば、“Chanel”は男性性についての黙想であり、男性性の肯定と転覆を繰り返し、その無意味さを示している。そしてそれらの下部には、カジュアルでいつでも負えられると思っていた関係性が実はそれ以上の意味を持っていたことが明らかにされるという、ロマンティックな示唆もされている。意味と感情の世界をフリースタイルのカジュアルな優美さを持って楽曲に落とし込むことができるというのは、Frankに与えられた天性の才能である。–Jamieson Cox

183. Young M.A: “OOOUUU” (2016)

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Young M.Aのこの出世作には、偽ることのできない自信がにじみ出ている。ルースでスネアが重たいビートの上で、彼女は涼しげな顔で女性とのセックスをラップする。酒に酔うことや友達と軽口を叩き合うラインの中にさりげなくそのようなことを言ってのけるのは、ヒップホップの中で珍しいことだ。クィアのミュージシャンをどのように扱っていくか決めかねているこの業界においては目立つ存在であるM.Aは、この楽曲で彼女が彼女自身で居られる、あらゆる価値判断から解放された場所を作り出した。そこでは彼女はアウトサイダーではなく、自分の領域を統べる女王である。コヨーテの遠吠えを冠したタイトルはからかいであり勝利の雄叫びであり、ようやく自分の体の中で安心できたという安堵の声であり、他者にもそうしようと誘いかける声である。–Sasha Geffen

182. Beyoncé: “XO” (2013)

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“XO”は単純で甘ったるい、ハグやキス以上のものを歌っている。冒頭に流れるチャレンジャー号の乗組員が故障に気がついた際の音声は、その後に続くラヴ・ストーリーに死の影を投げかける。表面だけを見れば、徐々に盛り上がっていくこの曲はエアリーで、エロティックで開放的な旅路であったこの2013年のセルフ・タイトル作の残りの曲たちの中では息抜きのように感じられる。シンセと共にスネアがドロップし、ロック、レゲエ、EDMから引用されたサウンドスケープを作り出す。一方で、生々しく、ほとんど叫んでいるようにも聞こえるBeyoncéの歌声は、我々がそれまでに彼女から聞いたことのないものだった(のちにレコーディングの際に鼻炎を患っていたことがわかった)。

ヴィデオの中で、Beyoncéはカーニバルにいる。ゴージャスな笑顔を幾度となく見せつける。しかしカーニバルというのは所詮まやかしの世界である。若さゆえの楽しさは表面を覆い隠しはしても、下腹部の影を払い切れはしない。愛の呪文、そしてその終わりの予兆。“XO”は巧みに喜びと悲しみの均衡を描く。それは、予期せぬ終りを迎えることもある美しい物事についての教訓の物語である。 –Samhita Mukhopadhyay

181. Migos: “Bad and Boujee” [ft. Lil Uzi Vert] (2016)

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この“Bad and Boujee”の成功は、独自のポップ・カルチャーの生態系を生み出した。Migosはメインストリームのスターとなった。“Rain drops, drop tops”はキャッチフレーズとなった。この曲へのTakeoffの不参加はミーム的な陰謀論となった。この曲はMigosの中毒性を極限まで蒸留した産物である。Gucci Mane譲りのつい真似したくなるフレーズづくりの才能、Metro Boominの焼き付くようなビート、延々と続く合いの手、そして完璧なマッチングで登場するゲスト・スター。この曲の場合、売れる直前だったLil Uzi Vertがジャグジーで眠りにつくことについてラップしている。このあとすぐにMigosはThe Beatlesによって達成されたチャート同時ランクイン数の記録に匹敵し、世代を代表する巨人としてのステータスを確固たるものにした。–Jonah Bromwich

Part 5: 180位〜176位